虎に翼 第19週
大学生のお子さんがいる星航一さんは、40代なかばでしょうか。寅子は30代後半。ふたりとも、中年。
マージャンを教えるという名目で寅子親子を訪ねてきた航一。そこへ招かれざる客・太郎次郎兄弟まで参上。「よかれと思ってやってきました」これ、本気だろうなあ。
令和の今よりもっと、保守的な空気だっただろう時代。独り身同士の中年男女が親しくしているのは悪い噂のもとだと、彼らなりに気を効かせたつもりだったんですよね。
おせっかいな人々には心配されるような立場のふたり。だけど恋をした。
遅かれ早かれ、彼らが惹かれあうのはわかりきったことで、絶対好きになるよねとは思っていたけれど、それでも私も、太郎次郎と同じくらい、なんだか間に割って入りたくなっていた。
だって、優三さんがいるじゃない。いたじゃない。
あんなに優しい人を忘れて、恋をしちゃっていいの?
優三さんがいなくなってもう何年も経った。それでも、優三さんの存在が大きすぎるんですよ。死んじゃってもずっと、心に居座ってるんですよあの人。
それは寅子も同じで。航一に惹かれながらも一歩を踏み出せない。だよねえ。
でもまさか、優三さん。あの思い出のお守りの中に、こんな未来まで見越した手紙を残しておくなんて。
そしてそんな大事な手紙入りだったのに、隣り合ったベッドの人に貸してしまうなんて。どうして優三さんは、そんなに優三さんなんだ。優しいにも程がある。
でもそのお守りが寅子の手元に帰ってきてくれたのは、その人が生き延びて、家族にお守りを返して優三さんの話をしなくてはと思ったから。すべて、優三さんが優三さんだったから。
静かに優しくまじめに「トラちゃん」と呼びかける声は、ちゃんと優三さんで、でも、イマジナリーとして、寅子の隣に座ってはくれない。
だって寅子の隣には、もう、いっしょにいてくれる人がいる。転んでも、手を握っていっしょに立ち上がれる人がいる。「弱音を吐くことができる人、正しくないトラちゃんも好きでいてくれる人」がいる。だから、きっと、もう寅子の前には現れない。
ああ、優三さんは、いつまでもどこまでも優三さんだ。大好きだ。
手紙を見つけた優未も、「後悔なさらぬように」と航一さんに言ってくれた涼子さまも、そしてはるばる来てくれたイマジナリーじゃない花江ちゃんも、ファインプレー。
仕事をしていた寅子だけじゃなく、家事と育児をすべて引き受けていた花江ちゃんも、家族のために戦い続けてきたんだと、寅子がはっきり言葉にして感謝してくれてよかった。ふたりはこれからも、何度ケンカしても、親友で義理の姉妹で戦友。
ドラマのキスシーンであんなに笑って(身長差!)、そのあとであんなに泣いたのは、初めてかもしれない。
転ばないように、あるいは転んでもなんとかお互いに助け合えますようにと、よろよろとぎこちなく腕を組んで歩き出す中年のふたり。遠くで響く汽車の音。
あたらしい旅のはじまりですね。おめでとう。いってらっしゃい。
優しい優三さんも、みんなを笑わせ続ける直道さんも、死んじゃったけどずっとみんなの心に生き続けていて。それはしあわせな人生だと思うけれど、でもあんなにすてきな彼らが、病気でも寿命でも事故でもなく、戦争で暴力によって死んでしまったのは、やっぱり、あんまりだ。
次週予告がとても重くて、そして美佐江のことも心配。ああ、あと1ヶ月で終わってしまうんだなあ。