虎に翼 第22週。私の椅子、あなたの椅子。
私だけの椅子が欲しい、できたら部屋の真ん中に。
座っているだけで周りのみんなが笑いかけてくれるような私の椅子を。ああ愛されていると心から思える、安心できる椅子を。
けれどそんな椅子が、どこにも見つからない。
人々が愛し、話題にしているのは、自分ではなく、優れていてかわいらしい、「いちばん」のひと。
部屋の中心には、彼らのための椅子がある。
自分に用意されているのは部屋の隅に並んだ「その他大勢」のための椅子。
【私の家は、家族がみんなバラバラの椅子に座ってベタベタしない、静かな家。
お父さんは子どもと海やお祭りに行ったりしない人。子どもと手を繋いで散歩して、一緒にプリンを食べたりしない人】
そう自分に言い聞かせてきたのに。
今は家族の真ん中の椅子に、知らない女の子が座っている。
お父さんが、自分には見せたことのない笑顔で彼女を見つめている。
それを見ているのどかと朋一。つらいね。
本当はその椅子に私が座りたかったの、なんて言いたくないよね。
座る場所が用意されなかった子どもは、最初から期待してないふりをして、外に出ていくしかない。
社会に自分の椅子がない、といらだつ人もいる。
優等生のように褒められない。不良でもないから心配もされない。誰からも注目されない、中途半端な自分。座りたい椅子は、いつも他の人に取られ、どうがんばっても「いちばん」にはなれないから、いつも隅っこの椅子に座るしかない。椅子取りゲームに勝てないくやしさから、平等の名の下に同じ椅子に座ろうとする人たちを、つい攻撃してしまう人。
そんな人たちに、あの小橋が語りかける。学校で、入学してきた女子たちを散々いじめてきた小橋が。寅子が同僚になってからも嫌味を言っていた小橋が。
「平等ってのはさ、俺たちみたいなやつにとって、確かに損なところもたくさんある。でもそのいらだちを向ける時、お前、弱そうな相手を選んでないか?
弱そうな相手に怒りを向けるのは何にも得がない。お前自身が平等な社会を拒む邪魔者になる。嫌だろ?」
小橋が。あの小橋が。
きっと「いちばんになれない」いらだちをずっと抱えて考えて、自分のことをこんなにむき出しにして学生に語りかけるくらい、成長してた。
「まあ、いちばんになれなくてもさ、お前のことをきちんと見てくれる人間は絶対いるからさ」
みんなに愛されている寅子を見ながらぽろりと「うらやましい」とつぶやいてしまった小橋。あの時彼を抱きしめた多岐川さんのような人たちが、彼をここまで連れてきた。
どんな人にも、ちゃんと「自分の椅子」は用意されている。
子どもができずに最初の婚家を追い出された百合さんは、星家に自分の居場所を見つけた。家事をして子どもたちを育てるのは彼女の生きがいではあるけれど
「褒められたくてやってるわけじゃないけど、時々は、褒められたいの」
世界中の、家事を担ってるひとたちを代弁するようなことも、胸の中に秘めている。
その人のための居場所と椅子が、誰にでも見つかりますように。
出産のために一旦その場を離れる秋山さんのような人にも、みんなで居場所を用意して待っていることができますように。
航一さんと子どもたちの、失った時間は取り返せないけれど、これからまた新しい家族の時間を作る。
寅子が出産で仕事を離れた時間も取り返せないけれど、後輩たちのための居場所づくりはできる。
後悔も失敗もすべて苦いけれど、それをすべて飲み込んで、前に進めますように。
どんな道を選んでもいい、と秋山さんに語りかけるトラちゃんの横に、見えないけれど優三さんが見えましたよね。
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