韓日翻訳練習:「低賃金先進国」日本
はじめに
韓国語の文章を読む練習をしたいと思い立ち、朝鮮日報のコラムを和訳してみることにしました。このような堅めの文章を題材に選んだのは、小説等に比べて漢字語の登場率が高く、知らない単語でも意味を推測しやすいと考えたためです。
今回和訳したのはこちらのコラムです。
同じ内容の日本語版も出ていましたので、私が作った訳と比較して見ていこうと思います。
初見で訳せなかった部分については太字にしてあり、わからなかった単語もリストアップしています。
和訳
저임금:低賃金
임금:賃金、給料
「임금」はこのコラムの中でキーワードになる重要な単語でした。
다루다:扱う
곱하다:かける(乗算)
잡다:推し量る、見積もる、概算する
「貿易商社の係長である、主人公しんのすけの父」とした部分は、原文では以下のようになっていて、
直訳すると「貿易商社の係長であるしんちゃんのお父さん」という感じになると思うのですが、クレヨンしんちゃんをよく知らない人向け(私もよく知らない)に、「主人公」という言葉を挿入してみました。ちなみに日本語版では、
となっていました。「お父さん・野原ひろし」で十分伝わるということのようですね。「商社勤めで係長」という表現も、元あった意味合いはそのままに、短くより自然な日本語にまとまっていて参考になりました。
また、『クレヨンしんちゃん』や『恋のスケッチ~応答せよ1988~』(私の訳では『応答せよ1988』となっていますがこれが正確な邦題のようです)などの作品名については二重鍵括弧(『』)で囲うそうです。
「환율」を「為替レート」と訳すことができたのは我ながら勘がよかったと思います。韓国と日本の通貨の話をしているな、ということと、「율」は「率」だろうということがわかったので、「兌換率」を連想できて「為替レート」にたどりつくことができました。
가져오다:持ってくる、もたらす
엊그제:数日前
경총:経総(=経営者総協会)
日本語版の記事と見比べてみると、「연봉」を「年収」と訳すか「年俸」と訳すかという部分に違いが出ています。「1年間に得る収入」を意味する、より耳馴染みがある単語として「年収」を選んだのですが(「年俸」は野球選手のイメージがある)、少し調べてみたところ、「年俸」は1年で支払われる給与のことで、「年収」は1年間の収入すべてを指すという違いがあるそうです。そう考えると、「ある企業が1年間にある社員に対して支払う給与」という意味合いで登場している「연봉」については「年俸」と訳した方が適切だったかもしれません。
다투다:もめる、争う(順位を争う)、口論する
침체:低迷、沈滞、落ち込み
동반하다:同伴する、一緒に連れていく、共に進行する、伴う
탓에:せいで
곤두박질치다:真っ逆さまに落ちる
계속:ずっと、~し続ける
동결하다:凍結する
인상:引き上げ
선호하다:好む、選り好みする、~の方が好きだ
동인:動因、ある事態を引き起こしたり変化させるのに作用する直接的な原因。
「기업들」を「企業たち」と訳すのは変かなと思い、より堅そうな表現の「企業ら」としてみたのですが、日本語版では「各企業」となっていますね。日本語を使っていて、単数・複数を意識することはほとんどないのですが、韓国語では結構な頻度で「들」が登場するのでどう訳すか悩みます…。
以下の部分は、なかなか訳すのに苦戦しました。
まず、「걱정하며」という部分を「心配しつつ、」と逆説的に訳してしまっているのですが、「-(으)며」は2つ以上の同時的な動作や状態を並べるときに使うもので、逆説的な意味合いはないようです。
「-(으)면서도」「-(으)면서」の場合には今回のように「~しつつも」と訳していいのかもしれません。
続いて「선호했다」という部分。「선호하다」を調べると「好む、選り好みする、~の方が好きだ」と出てくるのですが、「賃金引き上げよりも雇用の維持を」に続く言葉となるとなかなかよい日本語が思いつきませんでした。
「複数ある選択肢のうち、あるものにより大きな価値を感じている」というような意味合いで「重視する」という言葉を選んだのですが、日本語版の「優先する」という訳には、より「ある選択肢を選ぶ」ニュアンスがあると思い、とてもしっくりくると感じました。
「オオマエケンイチ」さんは大前研一さんという方だったみたいですね。
このあたりの記事で似たような話が出てきます。
https://www.ohmae.ac.jp/mbaswitch/income_of_japanese
초임:初任(、初任給?)
짜다:しょっぱい、ケチだ
천정부지:天井知らず
청년:青年
자조하다:自嘲する
임직원:役職員(役員+職員)
불과하다:過ぎない
놀라게 하다:驚かせる
-게 하다:~させる
「日本に好意的な台湾」とした部分は、原文では「일본을 좋아하는 대만(=日本が好きな台湾)」となっているのですが、より国家間の関係を表すのにふさわしい表現を考えたところ、日本語版と同じ表現になりました。なんだか嬉しいです。笑
「しょっぱい」という意味の単語に「ケチ」という意味もあるのが日韓共通なのは面白いなと思いました。どのような経緯でこうなったのか気になります。
「임직원」は「役職員」と訳したのですが日本語版では単純に「社員」となっていますね。確かに役員も職員も社員なので、社員でよいのかも…(「役職員」という単語を今まで使ったことがない)。
翻訳とは関係ないですが、日本に好意的だというだけで引き合いに出されて賃金の低さをネタにされている台湾が少し気の毒な気がします。笑
別に台湾の企業風土が日本っぽいみたいな話をするでもないですし。正直この段落はあまり本題とは関係ないように思いました。
벗어나다:抜け出す
발버둥(을) 치다:じたばたする、地団駄を踏む、頑張る
책무:責務
호응하다:呼応する
이/가 넘다:~を超える
여전히:相変わらず、依然として
풍요롭게:豊かに
절약:節約
요령:要領、コツ
저항:抵抗
作品名・書籍名等を二重鍵括弧で囲うとすると、『年収200万円で豊かに暮らす』とした方がよさそうですね。
また、この本の内容である「초절약 요령」は直訳すると「超節約要領」だと思うのですが、これを日本語版では「超節約ノウハウ」としています。確かにこういった本は「ノウハウ本」と言いますよね。
最後の
という部分は、日本語版では以下のようになっています。
私は「우리」をそのまま「我々」と訳したのですが、この記事がもともと韓国人の記者の方によって書かれていて、朝鮮日報日本語版の読者として想定されているのは日本人だということを考えると確かに「韓国人」と訳すのが適当だなと感じました。
余談ですが、日本の経団連のことを韓国版の記事で「게이단렌(=ケイダンレン)」とそのまま同じ音で呼んでいたのがなんだか意外で面白いなと思いました。韓国の人はケイダンレンと聞いてピンとくるものなのでしょうか…?
感想
今回の記事は日本について書かれたもので、特に生活に深くかかわる賃金についての内容だったので興味深く読み進めることができました。よりよいお給料を求めて転職していくことが日本全体の賃金水準を上げることに繋がるのかもしれませんね。
また、たまたま訳したコラムの日本語版が出てきて、比較することができてとても勉強になりました。これからは日本語版が出ているコラムを中心に訳してみようかなと思います。