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モーガン・ハウセル「SAME AS EVER この不確実な世界で成功する人生戦略の立て方」を要約する

1. 人生は期待値のゲームである

人が幸せを感じるかどうかは、期待値がどれだけ大きいかに寄る。期待を大きくしすぎないこと、いわゆる「ゴールポストを動かさない」というのが重要。ただ、これが意外と難しい。それは他人との比較が大きな影響を与えるから。たとえば、投資家のチャーリー・マンガーは「世界を動かしてるのは欲じゃなくて嫉妬だ」って言った。人は無意識に「自分と似た境遇の人はどんな生活してるんだろう?」と考えがち。それで、期待や行動を周囲の目を気にして決めてしまうことが多い。

本書での具体例を一つ紹介する。1950年代のアメリカは、戦後の復興期で所得格差がすごく縮まっていた。みんな「自分と他人の生活水準にあんまり差がない」と感じ、期待値が抑えられていた。例えば、当時はほとんどの人が似たような給料で働いて、狭い家に住んでた。だから、自分の生活に対して「これで十分だ」と思いやすかった。休暇もみんなキャンプとか似たような過ごし方してて、比較の幅が狭かった分、安心感があった。それが1950年代は幸せだったと多くの人が感じる理由である。一方で、今はソーシャルメディアがあり、比較対象がとても広がっている。編集されて美化された他人の生活を見て、「あの人はこんな家に住んでる」とか「エリート校に子どもを通わせてる」という感じで、自分との違いを意識してしまう。心理学者のジョナサン・ハイトいわく、ソーシャルメディアは「人とコミュニケーションを取る」よりも「自分をアピールする」ために使われることが多い。これが、無駄にプレッシャーを生んで、幸せを遠ざける要因になっている。

2. 不確実さを味方にする

人は「確実さ」を求めるのを止められない。毎日がいつも不安定であれば朝起きる気力すらなくなるかもしれない。何か「確か」だと思えることにすがりたい想いがあり、その世界では「正しさ」よりも「物語」が優先される。例えば、論理的な意見や事実であっても、それをうまく語れないと誰の心にも響かない。一方で、説得力ある物語を語れる人は、利益や注目を得やすい。結局、みんな感情的になったり、わかりやすさを求めているので、「物語」に惹かれやすい。経済も感情で動いている。経済学者ペア・ペイルントが言うには、価値は「理由がどうあれ、欲しいと思うかどうか」で決まる。有用なものや利益を生むものだけが価値を持つわけではない。測定も予測もできないものこそが、投資やビジネス、人間関係でも一番重要になってくる。

また、「非効率」を完全に避けることもできない。重要なのは、非効率的な状況や不完全な部分を受け入れ、どれだけそれを我慢できるかだ。意見の違いややる気の差、コミュニケーションのズレに対して我慢できないと、他人と協力して成功することが難しくなる。成功を目指すためには、非効率性を避けるのではなく、適切に許容する力が必要だ。それは映画『アラビアのロレンス』のシーンに象徴されている。ロレンスが指でマッチの火を消すシーンでは「痛みを気にしないこと」がコツだと語られ、これは人生において「近道や効率を求めるのではなく、必要なときには痛みや困難を耐え忍ぶこと」が重要だという教訓を示している。

効率よく物事が進んでいると感じたとき、それが必ずしも正しい方法であるとは限らない。例えば、ある番組が成功したのは、セリフの言い回しやテイク、キャスティングに至るまで細かく管理したからで、効率的に進めようとすることが必ずしも成功を導くわけではない。近道を選ぶことで成功にかかるコストや時間を見逃し、失敗につながる可能性がある。一方で、効率的でないことや時間のかかるプロセスが、長期的には成功を生む可能性がある。短期間で効率を追い求めることが常に最良の方法ではなく、時には痛みや困難を乗り越え、一歩一歩進むことが本当の成功に繋がるという教訓が込められている。この視点を持つことで、仕事や人生における真の成功を手に入れるための道が見えてくる。

3. 意気揚々と絶望せよ

革新はいつも「切羽詰まった問題」から生まれる。ストレスには、普段では発揮できない集中力を生む力がある。先延ばしや優柔不断を断ち切り、やるべきことを眼前に突きつけるので、今すぐ全力で取り組むほかなくなる。例えば、第二次世界大戦中のある兵士は「恐怖を忘れまいとすることが生き残るための最善の方法だった」と語っている。戦場では大きなストレスが、不注意なミスを防ぐ力になったのだ。起業家のアンドリュー・ウィルキンソンは「成功している人ほど生産性に囚われ、不安障害になりやすい」と指摘している。

しかし、ストレスにあと押しされた原動力は明らかに限界がある。やる気につながる有用なストレスが生じる事態と、どうにもできない最悪な事態とのあいだには明確な違いがある。後者になると、技術革新は妨げられる。資源すら枯渇してくると、人々は危機を脱するより、ただ生き延びることに集中するようになる。そして、おそらく同じくらい重要なのは、真逆の状態になったときに何が起こるかということだ。富に恵まれ、見通しも明るく、背負うべき責任も少なく、脅威も過ぎ去ったかに思えるような、すべてが絶好調のとき、人は最低最悪の愚かで生産性のない行動を取るようになる。

こうした状況を乗り越える鍵は、楽観と悲観のバランスを取ることだ。たとえば、捕虜となった兵士たちの話では、「クリスマスまでには家に帰れる」と信じ続けた人々は、実現しないたびに精神を崩壊させてしまった。一方で、「厳しい現実を受け入れつつ、いつかは家に帰れる」と信じた人々は、生き延びる力を保てた。このように、現実を見据えながらも希望を持つ姿勢が、困難を乗り越える力となる。この考え方を「合理的楽観主義」と呼ぶ。

合理的楽観主義者は、歴史が困難や失望に満ちていると理解しながらも、最終的には進歩があると信じる。たとえば、技術革新や社会の進歩は、多くの失敗や試練を乗り越えて生まれてきた。こうした長期的な視点を持つことで、挫折の中でも希望を失わずに前に進むことができる。この姿勢が、現代の「この不確実な世界で成功する人生戦略の立て方」である。


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