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病室という社交場日記(田舎篇③)


進学を機に18歳で街を出て
30数年ぶりに、この街に戻ってきた。

県南端の港町は、住む地区で方言も異なる。
今は高校生ぐらいでも、しゃべれない、はおろか理解すらあやしいであろう方言。
だが、病棟ではバリバリ現役だ。
となりの部屋からは、“ハマっこ(港付近在住)”であろうご婦人の一日の会話がほぼ、聞こえてくる。(相手をしているであろうご婦人は通常のボリュームらしく内容は聞き取れない)
私はハマッこではないので、同じ言葉は話せないが、意味はすべてわかる。
そしてその内容は、ご近所さんのこと、病気のこと、生活のこと。時折小さくなったときは病院のこと。
そして昔の街の風景のハナシ。銀座通りにあった何々屋さんで買った洋服のこと、駅前(昔は利用者も多く駅には売店もあったが今は駅舎も解体されて無人)の旅館のこと。
遠い記憶にある映画館のことがふいに思い出された。
横にあった食堂のようこちゃん、元気かなぁ。「好だ、好だ、」と書かれたラブレターをもらったと、笑いながら恥ずかしそうに教えてくれたっけ。。

耳の遠い90歳Mさんが入居してきた日
面倒見の良いYさんがいろいろ話を聞いたりカーテンを閉めてあげたりしていたその日の午後、
90歳Sさんはじっとベッドに寝たまま、少ししかめっつらに。
どうやら、やきもちをやいている様子。
思わず一人で笑ってしまった。かわいすぎるぜ、おばあちゃん。
年を経て、寿命をまっとうする前段階で、人は子供がえりする…
本当にその通りなのかもしれない。



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