さとなかたみ

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病室という社交場日記(田舎篇⑥)

91歳のMさんのところに、家が近所だという90歳のおばあちゃん(隣室)が遊びに来た。いわく 昨日、腰が痛くて点滴を受けていた時、尿意を催した。 そのことを看護師に伝えたところ、点滴中だけおむつをしようということになった。 「父さん以外に、初めて見せた。げんなかった(恥ずかしかった)」と! 90年間の人生で、初めて“しもの世話”を受けた。そして ご主人以外に初めて、“しも”を見せた!と笑いながら語っている。 いやはやなんとも愉快な入院生活である。

    • 病室という社交場日記(田舎篇④)

      今週末の退院が決まった。 70代Yさんは来週半ばで決まりそうだ。 今の4人部屋になって約20日。 この数日、もともといた3人に、妙な家族感が生まれ始めた。 ムードメーカーのYさんがお母さんで、バラバラの90歳Sさんがおばあちゃん。そして私が娘なのかYさんの妹か。 2人して、Sさんに“できることは自分でやらせる”ためのお節介が加速している。 前回も書いたが、がりがりに痩せて上半身胴体いっぱいにコルセットをしているSさんは、つい、手をかけたくなる様子をしている。 ここの看護師

      • 病室という社交場日記(田舎篇③)

        進学を機に18歳で街を出て 30数年ぶりに、この街に戻ってきた。 県南端の港町は、住む地区で方言も異なる。 今は高校生ぐらいでも、しゃべれない、はおろか理解すらあやしいであろう方言。 だが、病棟ではバリバリ現役だ。 となりの部屋からは、“ハマっこ(港付近在住)”であろうご婦人の一日の会話がほぼ、聞こえてくる。(相手をしているであろうご婦人は通常のボリュームらしく内容は聞き取れない) 私はハマッこではないので、同じ言葉は話せないが、意味はすべてわかる。 そしてその内容は、ご近

        • 病室という社交場日記(田舎篇②)

          「命をもろどっでしょうがなか」 この病棟で何十年かぶりに再会したという、間もなく91歳!同級生の会話。 生きたいわけでもないが、生きなければ仕方ない それをさらりと当たり前のこととして共感しあっている。 ふたりとも戦争体験者だ。(当時の話を聞きたいがいかんせん耳が遠く、病棟でははばかられる音量となりそうだ) 同室の80歳Dさんが退院し、昨日から仲間入りした90歳のMさんは、とても耳が遠いが、頭はクリアでポータブルトイレを使用するたびに「ごめんなさい」と断る。「気にすることは

        病室という社交場日記(田舎篇⑥)

          病室という社交場日記(田舎篇①)

          出勤途中、足元をロープにとられ派手に転んで3週間。 人生3回目の入院生活は左大腿回答筋断裂および筋内出血という立派な病名と激しい痛みとともに始まった。 入院したのはの鹿児島県南端の地元にある整形外科病院。代替わりし、幼いころの記憶にあった古い灰色の建物は様変わりして、クリニックも併設され、清潔で軽快な雰囲気。 初日は2人部屋の回復室にひとり。急患、とはいえ家族の車で来院してきた比較的のんきな患者。 ボルタレンの服用に加えて座薬も効いたのか、固められた左脚は痛みも弱まり、前

          病室という社交場日記(田舎篇①)