熊谷めぐみ & 影山多栄子|ART & ESSAY《6》|可憐で不思議なクリスマスの光
クリスマスを祝う人々であふれるロンドン。だが、人間嫌いで強欲なスクルージにとってクリスマスはくだらないものでしかない。あるクリスマス・イブの夜、スクルージの前に七年前に死んだはずの相棒マーレイの亡霊が現れる。そしてマーレイの予告通り、過去・現在・未来の三人のクリスマスの精霊がスクルージのもとを訪れる。
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クリスマスなんてくだらない! そう言ってクリスマスを、そしてクリスマスを祝う人々を強く拒絶するスクルージ。一方、ロンドンの街では、人々が、クリスマスの歓びを家族や大切な人と共に分かち合い、幸せな時を迎えていた。
裕福ではないが快活な青年であるスクルージの甥フレッドは、拒否されると分かっていながら、毎年伯父をクリスマスの食事に招待しにやって来る。スクルージに薄給で雇われている事務員のボブ・クラチットは、家族に反対されながらも、クリスマスの晩にスクルージの健康を願う言葉を口にする。
喜びだけでなく、人生の苦しみや悲しみを抱えた人々が、幸せな時間を過ごすことができるクリスマス。そのすべてに背を向けたスクルージのもとに、かつての相棒マーレイが亡霊の姿であらわれ、スクルージが忘れていた、そして見ようとしなかった真実をスクルージの目の前に示すのだった。
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クリスマスを拒絶しながら、誰よりもクリスマスのあたたかさを欲していたスクルージ。そんなスクルージを優しく、時にはいたずらっ子なまなざしで見守るのは、可憐で不思議な、金のクリスマスキャロルと菫のクリスマスキャロル。
オーナメントの天使たちは、スクルージと彼を取り巻く人々を優しく、時に興味津々に見つめているようだ。ふと誰かが振り向く。あんなところにこんなにかわいらしい天使のオーナメントがあっただろうか。それは愛しい人と結婚したばかりの甥のフレッドかもしれない。わずか一日しかない休みを家族と過ごすために心を弾ませて帰宅する事務員のボブ・クラチットかもしれない。
スクルージ? スクルージのはずがない。だって彼はクリスマスを祝う気持ちをすっかりなくしてしまったんだから。
なくしてしまった? ほんとうに? 菫のクリスマスキャロルと金のクリスマスキャロルが楽し気にささやく。
そんな天使たちの言葉が正しかったと証明するように、マーレイの亡霊と出会ったスクルージは、過去・現在・未来のクリスマスの精霊に連れられて、クリスマスをめぐる記憶と現実、そして将来の自分の姿と向き合うことになる。
寂しい少年時代、自分を慕ってくれたかわいい妹、仕事の楽しさとクリスマスの寛容さを教えてくれた雇い主、お金に目がくらんで大切な人を傷つけてしまった過去、そして、後悔。
スクルージの目の前にはフレッドやボブたちがクリスマスを祝う楽し気な様子が映し出される。そこには幸せな人々の姿があった。中でもスクルージの目を引いたのは、病弱で足の悪いクラチット家の末っ子ティムの姿だった。
つらい状況でもクリスマスを楽しみ、人々の幸せを願う小さなティム。その健気な姿に、搾り取るばかりでボブに十分な給料を与えていなかったことを後悔する。そして、ティムは長くは生きられないということを知り、余計な人口が減るなら死にたい奴らが死ぬのはけっこうなことだ、と言った過去の自分の言葉が、ナイフのようにスクルージの胸を突くのだった。
いったいスクルージはどうなってしまうのか。小さなティムはあとどのくらい生きられるのだろうか。金のクリスマスキャロルと菫のクリスマスキャロルは、楽しい時だけではなく、悲しい時にも変わらず、寄り添い見守ってくれる。
あの天使のオーナメントをどこかで見たことがある。
スクルージが見向きもせずに通り過ぎたあの飾り?
それともクラチット家の末っ子が笑顔で飾りつけたあの?
答えはそれぞれのクリスマスの思い出の中にある。
今日も優しく楽し気にクリスマスと人々を見守ってくれる、可憐で不思議な金のクリスマスキャロルと菫のクリスマスキャロルたち。
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作家名|影山多栄子
作品名|金のクリスマスキャロル(2種)
リネン・ミニュチュアファー・ポリエステル綿ほか・布えのぐ着彩
作品サイズ|高さ10cm(ひもを含まず)
制作年|2022年(新作)
*オンラインショップに別ショット画像を掲載しています
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作家名|影山多栄子
作品名|菫のクリスマスキャロル(2種)
リネン・ビスコース・ポリエステル綿ほか・布えのぐ着彩
作品サイズ|高さ11cm(ひもを含まず)
制作年|2022年(新作)
*オンラインショップに別ショット画像を掲載しています
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