8月に読んだ本
『小説の読み方、書き方、訳し方』柴田元幸、高橋源一郎(河出文庫)
ジュンク堂池袋店の柴田元幸フェアで購入。「個体」としての読む小説があり、「気体」としての書く小説があり、「液体」としての訳す小説がある。小説は触れ方によって、全く違った顔を見せる。二人がそれぞれ選んだ海外小説、現代日本の小説30選(+α)も頼もしい。
『坂下あたると、しじょうの宇宙』町屋良平(集英社文庫)
詩について語ることはなんだか恥ずかしい。ポエムという言葉を嘲る意味で使う。そんな人たちにこそ、読んでみてもらいたい。きっと「よくわからない」と言う気がするけど。僕だってよくわからない。詩をずっと読んでいると、わからないけどわかる瞬間がくる。詩を楽しむのには、スポーツや勉強と同じく経験の積み重ねも必要なのかしら。
『母影』尾崎世界観(新潮文庫)
マッサージ店で働く母親。母が働く姿をカーテン越しに見る「私」。子どもの語りなので、語彙は少ない。それが外からは見えづらい、「私」にとって過酷な状況を生々しく伝えてくる。又吉直樹の解説も面白い。二人の対話を聞いてみたい。
『返らぬ日』吉屋信子(河出文庫)
帯文にもなっている、斜線堂有紀の解説の一文、「これは、百合がまだ徒花であった頃の傑作少女小説である。」この一文が全てを物語っていると思う。時代ゆえの仮名遣いも相まって、少女たちの熱がひしひしと伝わってくるようだった。
『サガレン 樺太/サハリン 境界を旅する』梯久美子(角川文庫)
北海道の北に位置する「樺太/サハリン」。歴史的に多くの名前を持つその土地は、日本において珍しく地続きの国境が存在した土地だった。境界線に向かうということ、越えるということ。それは様々な人たちを惹きつけた。宮沢賢治もその一人だ。サガレンを旅する。僕の行きたい場所がまた増えた。
『法廷遊戯』五十嵐律人(講談社文庫)
作者の五十嵐律人は現役の弁護士(この小説を書いたときはまだ司法修習生だった)で、その法律知識が発揮されている。でもこの小説の魅力はそれだけではなく、ミステリーとしての魅力的な謎、爽快な解決編、そしてキャラクターの持つ魅力にあると思う。まあ、そんなことは言い尽くされていると思うけど、ありきたりに面白いしか言えない小説って、きっと多くの人に楽しまれる小説なんだと思う。映画化もするらしいしね。
『ロード・エルメロイⅡ世の冒険6 フェムの船宴(上)』三田誠(タイプムーン・ブックス)
半年に一度のお楽しみ。今作はついにエルメロイ教室1番の問題児、フラット・エスカルドスが登場。前作のラストから期待していたけど、思った通り言ってることとやってることがめちゃくちゃでした。楽しい。エルゴとのコンビも意外としっくりきていて、次巻が楽しみです。あとは遂に登場したあの人がどうなるのか… また、女難の相が出てるんじゃないか…
『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論Ⅸ 人の死なないミステリ』松岡圭祐(角川文庫)
凄まじいペースでシリーズを発表し続けて、もう9冊目。今回はタイトルの通りのお話でしたね。毎回、現実に周りに居たら嫌だなあという絶妙に凄まじい業界の人が出てる気がするけど、モデルとかいるんだろうか… 巻を重ねる毎に李奈の状況が変わっていって、冒頭の李奈の現状を読むのが、ある意味一番楽しみかもしれないです。
『ストロベリー戦争 弁理士・大鳳未来』南原詠(宝島社文庫)
前作はVtuberが題材でしたが、今作はイチゴ。農作物の権利について詳しくなれました。ためにもなるし、面白いしずっと続いてほしいシリーズです。普段は冷静沈着な未来が、スイーツを目の前にしたときだけIQが下がるのは読んでいて面白かった。
『know』野崎まど(ハヤカワ文庫JA)
脳に「電子葉」を埋め込むことで、端末なしで世界中の情報にアクセスすることが可能になった時代。ザ・SFな世界観で繰り広げられる情報戦は迫力があったし、最終的な話の到達点は「これぞ野崎まど!」って感じだった。個人的には。
あと、野崎まどは登場人物のネーミングセンスが抜群だよね。小説の世界観と現実を繋げるような、ちょうど中間に置くようなネーミング。連レル、知ル。
『サマーバケーションEP』古川日出男(角川文庫)
夏休みも終わる8月の末。締めくくるにふさわしい1冊。僕は人の顔を認識することができない。だから匂いや音で人を判別してる。僕と一緒に冒険をするメンバーもみんな個性的。読んでいて「気にするところ、そこなんだね」がずっと続いたけど、不思議とそれはストレスにはならない。ただ聞いているだけ。