マガジンのカバー画像

言葉ならべ

11
運営しているクリエイター

#言葉ならべ

「良夜」 言葉ならべ

カラカラになったあなたを満たす音

夜は手の中にあって

画面の向こうの声を静かに聴いている

今日もまた、今日が終わっていく

重力に任せて背から落ちていく

「カラコロ」 言葉ならべ

強くなったね、あなたは夜。

もうどこにも光はいけやしない。

月の涙も希少になった

星の砂だけは変わらないまま

プラネタリウムはまるで夜空ね

きっと寂しい人になってさ、

カラコロわらって言うんだろうね

夜空はまるでプラネタリウムね。

「紅茶」 言葉ならべ

紅茶をご存じ?
あなたは綺麗なお花ね
ポットでゆっくり眠ってみない?

カノジョも彼女もカノジョも彼女も
あまい口どけになって沈んだ。

「さよなら」 言葉ならべ

あなたのさよならは
 貴女が温めてきた言葉と同じ陽だまりの匂いがして
息をした花や葉や茎や根や空や虹や雲の一瞬が
あなたの切り取る世界が
 公園のベンチに残る木漏れ日みたいに残って
なんてことない毎日が通り過ぎながら
なんてことない毎日が通り過ぎるから
 きっと変わったものもあったんだろう
  たった一つがこんなに胸を突くんだろう
笑って手を振って
思い出せるようになったらまたいつか。

「墓標」 言葉ならべ

貴方が呟いた言葉は風に溶けて流れていった

数歩後ろでこぼれた安堵に知らないふりして歩く

何も知らないことが罪ならいっそそのまま罰を受けたい

ひとりで被りきれるだけの小さくて重い罰を

「虚々」 言葉ならべ

あなたが思うより私は弱虫ね。

枯れた夜風に寄り掛かったスターチスはカラカラ泣いてる

白い花だと知っているのはあの子が

貴方みたいとか零した所為かもね。

「航海日誌」 言葉ならべ

壮大な旅路も切り取ればただの一瞬で

写真に嫉妬しては愚図るアタシをあなたはどう見てたのかな

星空を怖がる人と怖がれなかった人の

どっちが淋しいかなんて

計れもしないのに決めつけては泣いていたアタシを

「絵」 言葉ならべ

スポイトを殴打して
吐かせた絵の具で空を塗る

呻き声も知らない。

きっともう関係ない。

最後くらい奇麗な方がいいって
あの人が言ったから。

だから

だから私が見えないように赤く空を塗ったんだ。

「ゴム風船」 言葉ならべ

浮き沈みして

ただ空を吸う

しぼんでゆくことを還ることとするのなら

それはそれでいいのかもしれない

だけどその様を見せたくないから

あんなに手から離れたがるのかもしれない

「汚海」 言葉ならべ

クジラの中の教会で

ステンドグラスが揺れている

聖母の祈りもむなしく

いつか其れは鋭利な兇器となるのだろう

やわらかいゴミにまみれて

いつかクジラは罪の墓標となるのだろう

「くらいとり」 言葉ならべ

僕がどうやら君ではなくて

君がどうやら僕じゃないから

夜になったら緩やかに

仮止めの羽がもげていく

あたまから血がなくなるようで

かろやかにアタシ、空と踊った。