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有島武郎「一房の葡萄」を読んで
※この記事には「一房の葡萄」本文のネタバレが含まれます
最近、オモコロのみくのしんさんとかまどさんの「本を読んだことがない32歳が初めて本を読む」を買ったんです。
本の中でみくのしんさんは「走れメロス」「一房の葡萄」「杜子春」「本棚」の四編を読んでいたのですが、恥ずかしながら私は「走れメロス」しか読んだ事がありませんでした。
「杜子春」も「一房の葡萄」も名前は聞いた事があるのですが、実際に読んだことはなく。
名作らしいんですよね......読んだ方がいいよなぁ......
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と、いう事で大学の図書館で有島武郎さんの「一房の葡萄」を借りてきたので、それの感想文を書こうと思います。
感想
当たり前ですが、面白かったです。
文がすごい綺麗で、その時その時の情景が浮かぶようでした。
話の内容なのですが、端的に言うと「主人公が友達の絵の具をパクる話」です。
端的すぎますね。もうちょっとちゃんと説明します。
主人公は横浜に住んでいます。凄くきれいな街で、主人公が通う小学校までの道のりにも、美しい景色が広がっています。
特に家の近くには綺麗な港があって、主人公はそこの景色を描きたがっています。
でも、主人公の持ってる絵の具じゃ上手く色が塗れない。クラスメイトのベンの絵の具だったら綺麗に塗れるのに......という話です。
最初は「親に買ってもらいたいけどわがままみたいだしなぁ......」みたいな感じだった主人公なんですけど、話が中盤に進むにつれて執着心が尋常じゃなくなってきます。
「本当に欲しい!!本当に欲しい!!!あの絵の具を俺にくれ!!!!」みたいな感じの心境になっていくのですが、それでも主人公はおとなしい子なので、実際の行動にはなかなか移せません。
「ベンは自分が絵の具を欲しがっているのを知っているのではないか?」「それで僕が絵の具を盗んだところをとっ捕まえて、『そら、僕の言った通りだろう?』と僕を嘲笑うのではないか?」と考え、悶々とする主人公。
「自分の心が読まれているのでは?」という幼少期の感覚がまざまざと思い出されます。
最終的に主人公はベンの絵の具を盗んでしまうのですが、その後の描写も凄い。ベンの方をちらちら見たり、先生がこちらのことを見ているような感覚になったり、そんな先生と顔を合わせられなかったり。
「幼少期のいたずらあるある」がこれでもかというくらい詰め込まれています。
割とすぐに絵の具を盗んだことがばれ、数人の子供たち相手にめちゃくちゃ詰められるのですが、そこの描写もまた凄い。
「いいお天気なのに、みんな休み時間を面白そうに遊びまわっているのに、僕だけは本当に心からしおれてしまいました。」
この一文、凄くないですか?
皆が楽しそうにしているのに、自分だけがつらい目にあっているときのあの疎外感。幼少期に一度は感じたあの気持ちが、文を追うごとにまざまざとよみがえってきました。
その後先生のいる部屋に連れてかれたりそこで葡萄をもらったりするのですが、特に私が感動したのは主人公が絵の具を盗んだ翌日のシーンです。
学校に行くのが嫌で嫌で仕方なく、病気にかからないかと思う主人公ですが、そういう時に限って体はものすごく元気。
しぶしぶ学校に行く主人公ですが、そこで驚きの出来事が起こります。
ベンが学校に入るなり手を握ってきて、先生の部屋に主人公を連れていきます。
部屋に入った二人を見た先生は優しく微笑み、二人は仲直りの握手をする、というシーンです。
ここを読んだとき、私は「うわ!!!待って!!!!ある!!!!!ありそう!!!!!てかあった!!!!!」という気持ちになりました。
具体的にいつだったかは分かりませんが、この「問題を起こした翌日に嫌々学校に行ってみたら想定外の出来事が起きて丸く収まった」という体験を、私、いや私たちはどこかでしているはずです。(してなかった人はごめんなさい。勝手にひとくくりにして。)
あの時の不安感と問題が解決した時の安堵が、まるで今目の前で起きたことのように思い出される、そんなシーン。
自らの記憶を掘り起こされた様な、そんな感覚を覚えました。
お気に入りのシーンです。
まとめ
全体を通して、自らの幼少期を振り返ったような感覚を覚える作品でした。
また描写されている風景のみならず、作品を構成する文もとても美しい。
上手く言語化できませんが、良い体験をしたな、と感じるような作品でした。
当たり前ですけど、凄い面白かったです。
読んだことない人は是非読んでみてくださいね。是非。
お疲れ様でした。