経済を編み直す vol.1/値段のないケーキ屋さん
Sweets & Suites/西山勇太さん
それは何気ない、職場での取り組みから始まった
僕はIT系の会社員です。以前、あまり会社の雰囲気がよくなかった時期があり、そこでフランクに話せる対話会を企画したことがありました。何もなかったら人も来ないかな、と思って、美味しいスイーツでも買ってみんなに差し入れることを思いつきました。
その時ふと思ったんですね。それだと「自分が身銭を切ってみんなにあげている」感があって、「そうだ、自分でつくって持っていこう」と思ったんですね。
そのケーキが意外に好評で。僕がつくったケーキをみんながありがとう、と言いながら美味しそうに食べてくれる姿を見て、本当に嬉しい体験でした。
その企画は毎月開催されることになっていたので、その度に色んなケーキをつくって持っていきました。
そんな中で、共感コミュニティ通貨という電子マネーを使ったeumoとNECの共同実験のプロジェクトが始まりました。その共同実験では、ギフトにみんな挑戦するということで、誰が一番ギフトしたかを数値化したり、それぞれが自分のやりたいギフトを発表する、という取り組みがありました。自分だったら何ができるのかな、と考えた時浮かんできたのはケーキづくりでした。
そこで、12月に「クリスマスギフトアンドアクション」というキャンペーンを企画したんです。クリスマスケーキを要望に合わせてつくってギフトします、という活動でした。
ギフトがギフトを呼ぶ
最初は怖かったですよ。誰も欲しいと手をあげてくれなかったらどうしよう、と思いました。
でも勇気を出して投げかけてみたら、4名くらい頼んでくれたんです。
そこでさらに心が動いたのは、4名の方みんなが自分のためではなく、大切な人のギフトとして頼んでくれていたことでした。
ケーキをつくって届けると、そこが大事な社員の入社記念パーティだったり、家族のために頼んでいたり。
きっとケーキというのはギフトとして活用される場面が多いという特性もあるのでしょうが、自分がギフトしたものが、さらに誰かのギフトになっていく感覚は何ものにも替えがたいものがありました。
値段のないケーキ屋、はじめました
こんな体験が広がっていけばいいなぁと思って、eumoアカデミーで出会った方々にケーキの話をよくしていました。そのコミュニティでは、ケーキをつくっている人、という印象はあったのかなと思いますが、その時はまさに自分が今のような仕事をしているとは想像つきませんでした。
自分がやりたいことを発表する機会があり、eumo加盟店になります、と宣言している自分がいました。
「値段のないケーキ屋さん」をやります、と。しかも、あなたのところまで全国どこでもお届けします、という活動をやり始めました。もちろんケーキ代だけでなく、送料(というか僕の交通費)も交渉しません。
eumoの代表、新井さんから、「これからコスト優先からギフト優先の時代が来る」「価値は受け取る人によって変わる」という話を聞いて、このコンセプトを思いつきました。でも本音では「実際、いくらで売り出せばいいんだ?」「こんな僕のケーキを買ってくれる人はいるのだろうか」という不安もありました(笑)
でも蓋を開けたら、注文をしてくれる人たちがいました。すると、通常の相場より高い値段で購入してくれる方々がいたんです。そこにはケーキ自体の価値もあるかと思いますが、応援の気持ちもこもっているんだろうなと思って。顔の見える関係で気持ちも入るんだと思います。
ありがとうを金銭的価値で測らない
その中で、やっぱり複数注文が来るようになると、それぞれいくらか目に入ってきて比較し出す自分がいるんです。ある日人生でとても重要な場面にギフトとして購入していただいた案件があって、それも遠方まで届けたんですね。それで後日入金された額を見て、「あ、これ結構手間かかったのに、これだけなのか」と感じてしまった自分がいたわけです。
これはまずいと思いました。金銭価値で人を判断してしまう自分に気づいてしまって、もう一つ一つの明細を見るのをやめて、月々の入金額、総額で管理するようにしました。入金金額は個人のお財布事情やその人の金銭感覚などいろんな背景が絡み合っています。思えば、こんな自分に気づくきっかけとなったその方のパーソナリティなど諸々考慮したら、その金額がいくらでもいいと思う自分もいたんです。
それに、その場でお土産をいただいたり、美味しい食事をご馳走になったり、その場自体がとても楽しくて格別なひとときを過ごせたり。お金として受け取ってはいない豊かな価値や金銭で測れないものも同時に受け取っていたことにも気づきました。だからこそ、それぞれの大切な気持ちを入金された金額で相対比較してしまうことはよくないことだと思って、きっぱりとやめました。
収益ゼロでも生きていける。絶対的安心な場所
細かい採算管理をしないことに怖さはありませんでした。自分に本業があったからというのもありますが、eumoのコミュニティの人たちには、こんな僕を見放さないという絶対的な安心感があるんです。事業を始めたときも、いろんな方に紹介していただいて、いい意味での「お節介集団」と言いますか(笑)
今第二フェーズのような現象が起こり始めています。ケーキはやはり原価がかかる商材ですが、僕がこのような事業をしていると知って、食材を送ってくださる方が多くなっているのです。それも送ってくださる方も無理をされているわけでなく「食べきれない分をどうぞ使ってください」という理由です。季節によってもちろん食材も変わりますが、何とありがたいことにサステナブルな提供体制が整いつつあるんです。
顔の見える関係性の中に、フリーライダーは生まれない
ケーキは正直、需要が安定している商材ではありません。初めて2年。事業は緩やかに成長している状況ですが、いつ状況が変わり、ケーキ自体の需要がなくなる可能性も考えられなくはありません。
でもeumoのコミュニティにいたら、大丈夫だと感じられるんです。何かあったら助けてくれるだろうし、僕も何かみんなの力になろうと新しいことを始められるのだと思います。そのくらいの安心感がここにはあるなと思っています。
よくこの活動をしていると、お金が出ていくばかりで入金が少ないケースなど、搾取と捉えられる状況もあるのではないか、と心配されるのですが、このような信頼を置ける方々、顔の見える関係性の中では「搾取してやろう」という発想にならないのでは、と感じています。むしろ、どれだけ助けられるか、相手のためになれるか、という発想で動いてくださる方が多いのです。
モノをきっかけに五感を通じてつながる体験
取り扱っているものが僕はたまたまケーキだった、ということですが、このようにモノをきっかけに、多くの方とつながり、豊かな時間を共にできたこと自体が宝物です。「今まで食べたケーキの中で一番美味しかった!」「お礼に一緒に夕食いかがですか?」などいろんな声をいただきました。中にはケーキを届けに行ったら、そこが居酒屋だったんですが、「このケーキ、みんな美味しいから食べてください!」とその場にいたお客さん全員にシェアしてくれた人もいました(笑)
僕にとって大切なのは、ケーキを通じて人がつながり、そこで感じる全ての体験です。それは味覚だけでなく、そこで感じる空気感、景色、人のぬくもり五感で感じる全てですね。
今ありがたいことに毎日ケーキをつくらないと生産が追いつかない状況です。元々の会社の仕事も日々ある中なので、どちらが本業かいよいよわからなくなってきました。2年経ち、ここまで軌道に乗るとは考えられなかったですね。本当にみんなに支えられて今があると感じています。
え、住んでいるのはオランダ?行ってみたかったんですよね!(笑)いつかケーキを届けに行きますよ!
勇太さんのケーキ屋さんはこちらから↓
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