逃げ上手の若君を語る
逃げ上手の若君という漫画の魅力を短く紹介します。本作は今度アニメ化が決定している上、WJで大人気連載中です。漫画好きの皆々様には少々冗漫な文章でしょうが、ご容赦を。
・粗筋
WJの紹介文は以下
その後の展開を踏まえて言葉を補うと、主人公は少年である北条時行であり鎌倉幕府再興を目指して仲間を集めています。様々な計略を巡らして朝廷方、足利氏と戦っていくのが主軸の物語です。主要人物についても付言すると、匿われる先の諏訪の在地勢力の頭である諏訪頼重という人物があります。神職で持ち前の神通力で主人公を助け導いていく、カカシ先生ポジション(最近のファンには五条先生の方が好ましいか)です。
・時行の主人公らしさ
「逃げ上手」の面白さを語る一つ目の観点として時行の主人公としての圧倒的魅力があります。
前作の潮田渚よろしく、見た目の印象はみんなが大好きな「可愛い男の子」です。またどうやらこの時代高貴な男子は髪を切らないらしいため、時行は長髪を結った相貌です。
何度でも言おう、髪を解くと長髪なのである。
ビジュアル面の魅力はさておき少年漫画の主人公の資質として重要なのは主人公が「何をデキる奴なのか」です。
時行の長所はタイトル通り「逃げ」です。少年漫画の主人公が敵から逃げるというのは一見消極的でイレギュラーですよね。
しかしこれこそ燦然と輝く主人公の魅力に関わる要素です。主人公の行動原理が「生き残ること」であるというのはむしろ史実にも通じるリアリティです。あと単純に他10歳程度の主人公が中世の武者たちと戦う上で、力勝負ではなくて身軽さを活かす戦術というのは漫画の中で一定の合理性があります。
作中では実際に逃げながら相手にダメージを与える色々な戦法が登場します。前作暗殺教室でも見せた例の要領なのか、いろいろなギミックや戦法が登場するところは、作者の専売特許というべきかもしれません。また作中で時行は身軽さを活かして各戦場をまわって伝令役をすることもあります。俯瞰的な視点から戦場をコントロールする戦いと逃げによる近接戦闘との両面で活躍する点が、時行の能力面の具体的な魅力です。
・史実(ネタバレ)とストーリーの推進力
(少年漫画を読むのに史実を踏まえる必要はないが)、一応ここで史実を確認しておきましょう。高校程度の日本史教科書の記述によると史実の時行は、「得宗家に生まれるも鎌倉幕府が滅亡した折、ひとり逃げのび、その後10歳で中先代の乱を起こし一時的に鎌倉を奪還する」という程度の記述がされています(この中先代の乱の詳しい内容が、本作の中盤以降のメインテーマとなってくる)。この史実を歪曲して解釈すれば、鎌倉幕府滅亡に係り一族郎党亡ぼされるも、一人逃げ延び復讐を誓う。諏訪で修養するなかで、仲間たちと出会い共に成長する。そして果ては大軍を組織し鎌倉を巡って戦う、、、
史実の時点であまりに少年漫画の主人公が過ぎるのですが、歴史漫画の宿命として、主人公が北条時行とされた瞬間から話の大筋は以上のようなものになることは明らかです。文献的史料の間隙をどう埋めるかが、史実を超える魅力に繋がってくるでしょう。
本作でストーリーを進める原動力として、諏訪頼重の神力があります。要するに、頼重は未来が見えるのです。どこぞの実力派エリートではないにしても、少年漫画では使い方が難しい要素のように思えます。強過ぎるからね。
本作では未来視が前提として話が進み、実際に予言によって時行は何度も救われますが、むしろ主人公が不合理な行動をしないまま物語を動かすための装置として、必要十分に機能していると思えます。
史実から考えても作中の描写から考えても、北条の残党は朝廷方がかなり力を入れて捜査しており、捕まったら叛逆者として処刑されてしまいます。幼い時行には世界が厳し過ぎる。
これを10歳まで生き残って反逆をするに至る時行に対する少年漫画的な説明として、頼重の庇護下で神力の恩恵を得ていたから、というのは簡潔でかつ十分だと思います。また戦いの中でも、予言を受けて時行がどう判断するかというところに力点がありますから、予言が主人公の行動原理を邪魔することはありません。まさにストーリーを動かしにいく要素として心地悪くない適当な説明要素なのでしょう。
短いながらも、逃げ上手を語ってみました。また他人の逃げ上手評などは特に読んでいないので色々読み進めたのち追記するかもしれません。
筆者は少年漫画の大ファンであるので、別の漫画についても書いていくからよろしくお願いしたいです。以下に、自己紹介記事をば。