ハハッ!ハハハッ!

5年ほど前、営業で外回りをしていたら、うっかりと会社用スマホを落としてしまい、全く機能しなくなってしまった。

「(やってしまった…)」と相当落ち込んだのだが、スマホがないと仕事にならないので代替機を申し込みに急いで近くの携帯ショップに駆け込んだ。

法人契約しているので、費用はかからないのだが、かなり店が混んでいて、自分の番が来るまで4時間ほどかかると言われた。4時間もかかるなら会社の近くのショップに行った方がいいやと思い、別のショップに行くと「今日はもう予約のお客様で閉店になると思うので、ウェブで予約を済ませて後日いらしてください。」と言われてしまった。

バキバキに壊れたスマホを持ってオフィスに戻り、その間に顧客からの電話がかかってきていないだろうかとソワソワしている時に、滅多にオフィスにいない社長から声をかけられた。

社長「お疲れ様。どうしたの、なんか変な顔して。」

さ「お疲れ様です。実はかくかくしかじかで…」

私がことの経緯を説明すると、社長は呆れたような顔をして
「なんだ、そんなことか…仕方ないなぁ…」といいカードケースから名刺を出してきた。

社長自身の名刺である。

社長「これ窓口に持って行ったらすぐ対応してくれるから。今すぐ行って直して来なさい。」

私は驚いた。
素直に「(これが社長パワー!カッケェ〜!!!)」と思った。

大きな声でお礼をいい、急いで携帯ショップに向かい案内担当の女性に声をかけ、名刺を見せた。

店員「えっと…こちらは………?」

さ「あ、えっとうちの会社が法人契約で利用していて…そのスマホが割れたので緊急で対応して欲しいのですが、あの…弊社の代表が名刺を見せたらいいと言うので持ってきたのですが…」

店員「あ〜そうなんですね。少々お待ちいただけますか?」

さ「はい…!」

(すげ〜なんか権力!THE権力を使った感じする♪完全に俺自身のパワーでもなんでもないけど♪)と呑気にこんなことを考えながら座っていると、かなり申し訳なさそうな顔で先ほどの店員がやってきた。

店員「えっと….申し訳ございません。法人契約されていたとしても、そういう対応は弊社ではしていなくて。申し訳ないのですが、普通にご予約いただいてから、ご来店いただいて宜しいでしょうか?」

さ「え…あっ….そうなんですか….」

店員「はい…あとちょっと、その名刺の方を当店で把握できていなくて…なので予約か、朝イチで来ていただいてお待ちいただくしかなくて…」

さ「あっ…そうなんですか…わかりました…」

店員「はい……..」

もういっそ、殺してくれと思いましたよ。

私は社長の名刺を握りしめて会社に戻った。

(社長…なぜ、どうして….)

恥ずかしさと若干の怒りを覚えながら、改めて予約をしようとしたが、オンラインで確認すると5日先まで埋まっていたので、朝早くから並ぶことにした。

翌朝、開店30分前から並び、なんとか手続きを終えることができた。

しかし、ここでまたちょっとしたことが起こった。

手続きを終え待っていると、バツの悪そうな顔で店員が代替機を持ってきた。そして、申し訳なさそうに私に

店「申し訳ございません。同機種の代替機がすべて出払っておりまして…」

さ「(なんだ、そんなことか…)別に全然、大丈夫ですよ〜!」

店「はい…ご用意できるのがこちらしかなくて…」

目の前に出されたものは、普通の白いスマートフォンだった。

さ「(え?別に全然いいんだけど………何?……)」

店「こちらディズニーモバイルとなっておりまして…」

さ「はい…(別にメールと電話が使えればなんでもいいんだが???)」

店「こちらでよろしいですか?」

さ「はい!(こんなことまで客に許可取らないといけないんだ…大変だな…)」

ディズニーモバイル=”ただのディズニーの装飾がなされたもの”としてしか認識していなかったので、特に気に留めることもなく受け取った。

まさか、この後、あんなことになるなんて……

SIMの入れ替えとGoogleアカウント連携も済ませ、ノンストレスで新しいスマホが届くのを待っていた時に、あることが起こった。

その日は月に一度の全体営業会議で、客先には行かずひたすら数字について上から詰められる地獄の日だった。
なので、顧客からの電話に出ることができず、休憩時間の合間に折り返しをしないといけなかった。

休憩時間にスマホを確認すると、不在着信が1件入っていたので、急いで折り返した。内容は特に急ぎでもない確認の電話だったので、気楽に答えていると客が妙なことを言い出した。

客「そういえばさ、携帯変えた?」

さ「あ〜そうなんです。今壊れてまして、これ代替機なんですよ。」

客「あ〜そういうことね!」

さ「あ、えと何かありましたでしょうか…」

客「いや、ふふ!大丈夫!びっくりしただけだから!そしたら宜しくお願いしますね!では、また!」ブチッ!

そう言って電話を切られてしまった……..

さ「(え??なに????番号も何も変わっていないはずなのに…)」

不安でいっぱいになった。

モヤモヤしているとすぐに休憩が終わり、会議が始まった。

途中、プロジェクターの不具合で会議が中断している時に、私は隣に座っている同僚に

さ「ねぇ。私の携帯にかけてなんか変なこととかあった?」と聞いてみた。

同僚「あ〜!なんか今、さすらいさんにかけると変なアナウンス流れますよね!」

さ「え!!!!!!どういうこと?」

同僚「なんか俺、一回留守電残そうとした時に、ミッキーとミニーがなんかごちゃごちゃ言ってましたよ!」

さ「え!!!」

同僚「俺もビックリして、ディズニー好き?なんかなーとか思ってました!」

さ「…………..」

同僚「でも〜さすが変えた方がいいっすよw 会社の携帯なんだし!」

さ「……………………」

リアルに頭が真っ白になってしまい、その後の会議内容は全然頭に入らなかった。

会議が終わるとすぐに、自分の個人携帯でそのスマホに電話をかけた。

仕事で使っているスマホ、俺の担当している顧客はこういうユーモアが分からない古風なタイプが多い….このスマホで営業している人はそういうタイプだ…その人たちが一体不在着信でどんなアナウンスを聞いたのか….俺には知る必要が….あるッ!!!!!

流れてきたアナウンスはこんな感じだった……

〜♪(エレクトリカルパレードの軽快な音楽)

ミッキー「ハハッ!僕ミッキー!ただいま電話に出ることがハハッ!できないんだ〜!」
ミニー「ウフフ!ごめんなさいね〜また折り返しするわね♪」

殺してくれと、思いましたよ……………….

そのアナウンスを聞いた瞬間、膝から崩れ落ちた。
その後、設定メニューからアナウンスの内容を通常モードに変えようとしたが、そもそもの設定でミッキー&ミニー、チップ&デール、そしてエレクトリカルパレードしか選択肢がないことに気づき、頭を掻きむしった。

それからのことはあんまり覚えていないんです。
ただ、ひたすら自分の顧客に「代替機の都合で着信音がディズニーボイスしか流れないスマホを使っている」という話をしまくったのだけ覚えている。アハハと受け流してくれる客もいれば、絶対に許さない客もいてクドクド文句を言われたことを思い出した…..

あの時、申し訳なさそうにディズニーモバイルを渡してきたお姉さん。
俺知らなかったんだ…そういうのも含めてディズニー仕様だったんだね…でも冷静に考えればそうですよね…俺もちゃんと聞いてなくてごめんね…

ちなみにこの不在着信アナウンスの件は、会社内から「会社携帯を個人的に好きなやつにするな!」や「いくらなんでも会社携帯でふざけすぎ」といった悲しい誤解を生んでしまい、「調子乗ってるやつ」というレッテルを貼られてしまったので、本当に苦い思い出としていまだに胸に残っている。
(まぁ割と早い段階で、誤解は解けましたが………)

ふぅ……..

おい、ミッキー…お前、電話に出ないくせ、ハハッ!は違うんじゃないのか?あと、ミニーも…ミッキーのそういうところ、ちゃんと注意してくれないか?そういうのって、お前ら2人で補い合っているんじゃないのか?それがペアってもんじゃないのか?

ふぅ……..

ディズニーに罪はないんだけど、ごめんね。TPOっていうのが人間界にはあるんだ…ハハッ…ハハハッ…ハハッ…

後日、新しいスマホが届いた時は、本当に嬉しかったですよ...
これを読んでいる社用携帯保持者の皆様、代替機には是非ともご注意くださいね。

ちなみに、冒頭で出てきた名刺で全てを解決しようとした社長には、この他にも別のエピソードがありますので、もしよかったらこちらも読んでいってください。

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