教育実習生
中学生時代、実習生が教師としてやってくることがあった。実習生が学校で教師体験をしているのだろうが、詳しいことはよく分からない。
ただ、普段の教師より若い人が教壇に立つことがあり、それが印象的だった。
特に若い男性の実習生が来ると、ませた女子たちのテンションが少し高くなるのを感じた。実習生も悪い気はしていない様子で、最初は緊張していたものの、2週間ほど経つ頃には女子たちをすっかり掌握していた。すでに緊張の影も見えなくなっていた。
実習生が意図していたかは不明だが、彼の授業は女子ウケを狙ったような言動が多かった。教師も人間だから、懐いてくれる生徒に目が向くのは理解できる。
しかし、当時多感な中学生だった私は、正直「気持ち悪い」と感じていた。
そんな私の冷ややかな視線に気づいたのか、実習生は私に対して語気が強くなることがたまにあった。
ある日、その実習生が担当する理科の実験の日が来た。私たちは全員理科室に集合した。実験が始まり、彼はデモンストレーションを行うためにクラスメイトを前に集めた。女子たちは一番前に集まり、熱心にビーカーを見守っていたが、私は後ろに立ち「私、興味ないですけど」といった態度をとっていた。
何の実験だったかは覚えていないが、実習生が行った化学反応がうまくいかず、授業が進まない。
実習生は苦笑いをしながら最初からやり直したが、また失敗していた。
退屈していたとき、前にいた小柄な男子が「ダメじゃん」と小声でつぶやいた。小声ではあったがちょうどクラスが静まったタイミングだったため、クラス全員がその声をはっきりと聞き取った。
「さそび!!」
ドンッ!!
実習生が私の名前を叫びながら、机に向かって全力で右手を振り下ろした。
「私じゃないんですけど…」と言おうとしたが、実習生は右手を痛そうにさすりながら「痛ってぇ〜…」と既に意気消沈していた。
理科室の机は頑丈だ。相当痛かっただろう。
ざまあみろ。
私は内心そう思い、黙ってその一言を引き受けた。本来発言した男子は心配そうに私を見ていたので、アイコンタクトで「気にするな」と伝えた。
実験はなんとか進行し、授業は終わったが、その後すぐ実習生は帰宅していた。
翌日、実習生は右手にギプスをつけて登校してきた。机を叩いた拍子に骨にヒビが入ったらしい。
今でも、街で腕にギプスをしている人を見ると、あの実習生のことを思い出す。そして20年以上経った今でも、当時と同じように心の中で「ざまあみろ」と思うのだ。
やはり、私は性格が悪い。
完