【文学フリマ広島7】『アサカニュータウンの幽霊』試し読み
『アサカニュータウンの幽霊』
(『抽選で高性能アンドロイドが当たったアンソロジー』より試し読み⑤でです)
https://c.bunfree.net/p/hiroshima07/45310
『アンドロイドが一家に一体から一人一体に~』なんて広告が流れているこの時代でも謎が絶える気配はない。それは三年前にできたばかりの街、アサカニュータウンでも同じことだ。
第一小学校の五年A組の教室では、二月だけどインフルエンザ対策で窓が開け放たれていて寒いが、放課後なのにクラスメイトの殆どが残っていた。
それはオレの双子の妹、ひばりがなくなったボールペンについて推理ショーをしているからだ。
「メイちゃんはボールペンをどこかに落とした。だけど落とし物箱には入っていない。つまりボールペンは今、別の誰かが持っているのです! そしてその犯人は、アナタです」
ひばりは白のTシャツに赤いスカート姿で教卓と黒板の間に立ち、名探偵のような口ぶりで言った。そして担任机で算数のテストの採点をしている秋野先生を指差した。
二十人余りのクラスメイトが一同に先生の方を見ると、先生は手を止め、困ったような表情をした。
「え? これは先生のペンよ?」
「いいえ、それは先生のペンではありません。今日のお昼休み明け、先生は教卓の足元からペンを拾いました。自分のペンだと思って。間違えるのも無理はありません。なにせそのボールペンは百均のボールペンで作りは同じですから。現に今まで、誰もそのペンを先生のペンだと疑っていなかった。でも、グリップをよく見てください」
言われて先生はボールペンのノック部分側を摘まみ、グリップを観察した。
「インクを入れ替え、長く使っている先生のボールペンのグリップは、そんなに綺麗じゃありません!」
「ええ!? あ、ほんとだ。よく見るとグリップが綺麗!」
先生はボールペンを持ち主に差し出すと頭を下げた。
「わざとじゃないの。ごめんなさい」
「ううん。返ってきたらいいの」
「でも、それじゃあ先生のボールペンはどこに?」
尋ねられ、ひばりは教卓に歩み寄る。そして未採点のテストの束を持ち上げると、少しグリップが黒ずんでいる赤ボールペンが出てきた。
「おおー!」
「すげー!」
「さすがひばりちゃん」
「さすひば!」
クラスメイト達から称えられ、ひばりは得意げな顔でオレの方を見てきた。
オレはひばりの推理ショーを見ながら読んでいた推理小説の文庫本に栞を挟んでランドセルにしまい立ち上がった。ランドセルを背負って教室を後にし、玄関で靴を履き替えると、
「もー、つむくん! なんで先に行っちゃうのー!?」
背中の真ん中辺りまである黒髪をコートの中に巻き込んだまま、赤いランドセルを抱えたひばりが走り寄ってきた。
「真実が推理通りだってわかったから、教室に残る意味ないし」
「一緒に帰りたいの! ひばりが!」
先ほどまでの「探偵っぽい口調」は何処へやら。子供っぽい口調に戻ってしまっている。
尤(もっと)も、ひばりに子供っぽいと言ったら「子供じゃない」と怒られてしまうが。
うん?
それはそうと、普段から「探偵みたい」に喋られたら、双子の片割れとしては堪ったものじゃないので助かるが。
「じゃあ待ってるから早く靴に履き替えな」
「うん!」
ひばりは満面の笑みを浮かべると勢いよく頷き、上履きを足だけで脱ぎながらランドセルを背負った。
校門を出て左の方にあるバス停からバスに乗って十五分。同じ大きさ、広さの庭付き戸建てが並ぶ住宅街の端にオレたちの家がある。
シックな色合いの高い壁で一周覆われていて門の部分以外からは中がチラリとも見えないことと、もう一つ、他の家の三倍くらいの広さを持つために、周囲の家々からは少し浮いている。三年前まで東北の閑散とした地域に住んでいた頃とは何もかもが違いすぎて馴染めなかった。けれど今では、表札の『朝霞』の文字を見ると安堵感というか、帰ってきたという気持ちになる。
通用門の前まで来ると隣にいたひばりが前に出て、横の壁にある顔認証機に顔を近づけた。するとまるで家自体がオレたちを出迎えてくれているみたいに、門が自動で開いていく。
「ただいまー」
ひばりが誰もいない家に言いながら門を潜ったとき、背後から足音が近づいてきた。
「つむじ坊ちゃん、ひばり嬢ちゃん、お久しぶりです」
呼ばれて振り返ると、三十代半ばの見知った男が台車で大きなダンボール箱を運びながら近づいてきていた。
「あなたは」
「パパの部下さん」
「おっと、今日の私はただの配達員ですから、配達員Aとでも呼んでください」
「はあ」
「何しに来たの?」
「坊ちゃんが抽選で当てたもの、うちの社の提供なんで社長に言われて届けに来たんですよ。セットアップもありますし」
「え?」
抽選と言って心当たりがあるのは、出版社のアニバーサリーで昭和に活躍したミステリ作家の全集(全四十巻)セットが当たるというものだ。
だけどオレの父が社長をやっている会社が手掛けているプロジェクトは「テクノロジーと街」であり、出版社ではない。
「なにが、当たったって?」
「アンドロイドですよ。従来品から嗅覚プログラムが追加され、感情プログラムに慈愛や憤怒が追加された高性能アンドロイド。パーツに使っている材料が貴重なため量産できなくて、今日持ってきたのはちょうど五十体目です」
(――続く)
『アサカニュータウンの幽霊』
ニュータウンの外れにある廃ビルに幽霊が出たという相談を受けた謎を愛する小学生の主人公、つむじは「幽霊に謎なんてない」と渋りつつも調査に向かう。すると、そこにあったのは――。
(アンドロイド×幽霊×ミステリ)
本作の続きは2/9(日)に開催される文学フリマ広島7で『抽選で高性能アンドロイドが当たったアンソロジー』を購入いただくか、後日さしす文庫のBOOTHで販売される電子版を購入していただくと読めます。
気になった方は、ぜひ購入してください!