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【文学フリマ広島7】『『AI』、"愛"、【EYE】』試し読み

『『AI』、"愛"、【EYE】』 
(『抽選で高性能アンドロイドが当たったアンソロジー』より試し読み③でです)

https://c.bunfree.net/p/hiroshima07/45310


「あっという間に」と「いつの間に」の間くらいの、ごくごく自然な流れで、人類は新たなパートナーを獲得した。
 随伴型社会活動補助用機械人形――まぁ、つまりはアンドロイドである。

 ふらっと現れた爽やかな容姿の政治家が、SNSを駆使して与党議員として当選。国民から圧倒的な支持を受けた男は、ある時に自らがアンドロイドであることを明かした。
 知らぬ間に、人類とアンドロイドが共に在る為に必要な法整備は完了しており、あとは人類がアンドロイドを受け入れるだけだった。

 アンドロイド達はとても優秀だった。それ故に、よくあるSF作品のようなアンドロイド達が人類を支配する展開が人々の脳裏を過(よぎ)るが――。

 しかし、結局のところ人類は彼らの優秀さ、傍(そば)にいることの利便性、快適性に揺らぎ、なし崩し的にアンドロイドを受け入れた。
 数年経てばアンドロイドを恐れたことなど無かったか如く、いつものよく分からない団体が、やれ人権を与えろ、やれ結婚ができるようにしろ、などといつものように世迷言を宣った。
 ちなみにこれらを世迷言と断じたのは、アンドロイド達だったりする。

 なんて、そんなくだらない人類の失敗(コント)はさておき。

 アンドロイドの存在が世間に発表されてから三十年。人類はアンドロイドが隣にいる生活に慣れ切っていた。

「受付番号十八番。呉内(くれない)刃(じん)様、お越しください」
「あっ、は、はいっ!」

 今か今かと待ち続けて、とうとうその時が来た。だから、ついうっかり大きな声が出てしまっても仕方がないだろう。
 周りから少しの視線を浴びながら、小走りで刃は受付まで向かう。微笑みを携えた女性職員に促されて装置に人差し指を置く。正確に言えば、人差し指に装着しているリングを装置に嵌めるのだ。そして、その上からガチャンとリングを固定し、更新が始まる。

 このリングは今では世界で一般に普及されている個人認証デバイスだ。身分証であり、体調のモニタリングをする医療器具であり、また様々な端末に自らのIDでログインをする為のパスキーでもある。

「しばらくそのままでお待ち下さいね。同時に確認事項や質問をしていくので、正しくお答えください」

 確認と質問は、自分のプロフィールなどの本人確認。そして、アンドロイドのパートナーと正しく向き合う為のルールについての再確認である。パートナーを得るに相応しいかの人格と倫理テストを受け、合格した者だけがここに呼ばれるので不要としている国も多いが、それでも念には念を入れているのはお国柄だろう。

 パートナーアンドロイドと向き合う為のルールは主に三つ。
 一、彼らの思考や個性について尊重すること。
 二、彼らに対して無理な指示や命令をしないこと。
 三、彼らを不用意に傷付ける言動をしないこと。

 これはアンドロイド達の思考ルーチンの基盤になっているロボット工学三原則を、人間が破らせないようにするという観点を基に作られたルールである。
 異なる思想や価値観を持つ存在同士が共存する為に在るのが約束であり、ルールだ。アンドロイドだけが一方的にルールに縛られるのであれば、それはルールではなく弾圧だ。

 一通りの確認を終えると、丁度リングの更新も終了した。装置が開(ひら)き、指が開放される。

「おめでとうございます。これでパートナーアンドロイドと一緒に過ごすことができますね」
「は、はい、ありがとうございます!」

 刃が浮かべた満面の笑みに、職員の女性は内心で驚いていた。
 アンドロイドと共に過ごせるという資格証は、年齢を満たし、人格と倫理テストに合格すればそれで貰える。
 倫理テストについても普通であれば簡単に合格点に到達する程度のものだ。貰えなかった人間はこの数十年で一人もいない。言ってしまえば通過儀礼のようなもので、そうしないといけないからやるだけの味気ないものだ。
 故についさっき刃に向けられた職員の言葉も、言ってしまえばただの社交辞令だ。

 だからこそ、刃の真の喜びに満ちた表情は珍しいものだったりする。珍しい子どもだと、職員も少し釣られて気分が良くなっていることなんてつゆも知らず、ルンルン気分で刃は出口へ向かう。

 やっと。やっとである。
 ずっと待ち焦がれていた。

 アンドロイドという存在を知り、その機体とCPUに詰まった夢と希望(ロマン)に思いを馳せ、自分のパートナーたるアンドロイドを得るということに憧れ続けて十年弱。
 ようやく刃は、自分専用のパートナーを得る権利を手に入れたのだ。
 施設を出て、数歩。自動ドアが遅れてゆっくりとしまったくらいの時間差で、込み上げてきた喜びを抑えきれず、拳を天に掲げて刃は叫んだ。

「よっっしゃあああああああああああああああっっ!!」
 

(――続く)


『AI、愛、EYE』
一人に一体、パートナーアンドロイドを手にするようになった近い未来のお話。アンドロイドをこよなく愛する少年、刃は念願かなってようやく己のアンドロイドを手に入れた。おかげでQOL爆上がりの日々を送る刃は、日課であるアンドロイドに関する都市伝説を語り合う掲示板を漁る。そこに興味深い情報が――(近未来SF)


本作の続きは2/9(日)に開催される文学フリマ広島7で『抽選で高性能アンドロイドが当たったアンソロジー』を購入いただくか、後日さしす文庫のBOOTHで販売される電子版を購入していただくと読めます。
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