【文学フリマ広島7】『私の炉(こころ)に疼いた熱』試し読み
『私の炉に疼いた熱』
(『抽選で高性能アンドロイドが当たったアンソロジー』より試し読み④でです)
https://c.bunfree.net/p/hiroshima07/45310
「……えぇっと。要するに、最終テストとして、データ収集の為にこの人と三年間一緒に過ごして欲しい、と」
少女、呉内灯が私を指差して言った。
現在私達がいるのは、某所のオタクロードと呼ばれている通りにある古いビルの地下一階。壁に偽装された扉を進み階段を降りた先の地下オフィスだ。
衝立で内装の奥を隠しており、呉内に見えるのはソファ二つと背の低いテーブルだけ。区切りを用いて応接室という役割を小さな空間の中に作り上げていた。
そのソファに呉内は座っており、彼女と向かい合うように絡繰という偽名を用いる女が座っている。
私こと、サンプル収集用フルスペックモデルタイプゼロは、そんな絡繰の背後にて待機し、呉内の様子を観察していた。
「人ではありません。パートナー型アンドロイド(仮)です」
ピシャリ、と言葉の一部を絡繰が否定すると、呉内は誤魔化しの笑みを浮かべて指を降ろした。
短く切り揃えられた黒髪、流行りを最低限抑えた衣服、座っている足元には今日の彼女の本命であるフィギュアの入った紙袋が一つ。
恐らく放課後にそのままフィギュアショップに行ったのだろう。彼女が通う高校の制服を着たままである。
「そこはまぁ絡繰さんにとっては重要なのかもしれないんですけど、私にとっては別に重要じゃあ無くてですね……」
疑惑、動揺、好奇心、怯え。熱センサーによる体温変化や無意識の仕草、表情筋と視線の動きから分析できる感情はこの四つ。
現在の状況において人が抱く正常な反応だと私は結論付ける。
「…………。その、どうして私なんですか? 抽選で当たったとか、言ってましたけど」
「はい抽選です。私どものダミー企業であるゴッドホホエミカンパニーのフィギュアを購入される方を対象に、購入履歴やSNS、素行調査などを行って問題なしと判断された方の中から更に抽選を行い、無事呉内様が当選されたという訳でございます」
「えっ!? ゴッホホってダミー企業だったの!?」
「おっと、機密情報を知られてしまいましたね。知られてしまったからには――」
「理不尽! そっちから暴露したじゃん今」
「冗談です。ですが、これはほぼ強制です。拒否された場合には記憶処理をさせて頂きます。ただ、こちらの記憶処理剤は私共の開発の副次的な技術でございまして、まだ完全なモノではありません。平たく言うと、この処理をすると一ヶ月ほど頭がパーに」
「怖っ、え、何急に。滅茶苦茶怖いんだけど。マジでヤバい組織に絡まれた……?」
「聞こえていますよ? 勿論、タダでとは言いません。このデータ収集に伴う金銭や協力報酬はお支払い致しますし、周囲の情報操作などはこちらが処理致します。ちなみに具体的な報酬金額は――」
絡繰が差し出したのは契約書。そしてその紙に書かれていた数字は八桁の金額。
「すっご……。いや、でもお金とかじゃなくて……」
「あと、ちなみにゴッホホのグッズについては恒久的に無償で提供できます」
「やります! 是非! やらせてください! なんでもします! 体を使うこと以外は!」
「…………。お金よりもフィギュアでなびくっていうのは、流石にちょっと、引きますね」
「なんっでやねん!?」
システム:呉内灯の初期分析結果――状況に流されやすい傾向有。
(――続く)
『私の炉(こころ)に疼いた熱』
最終臨床テストとしてオタク女子の灯と一緒に暮らし始めて一ヶ月。人間の「愛」について興味を持ったアンドロイドの光は、己のストレージに不明なデータが在ることに気付く。ウイルスでもなく、不要なデータでもない。果たして、そのデータとは?
本作の続きは2/9(日)に開催される文学フリマ広島7で『抽選で高性能アンドロイドが当たったアンソロジー』を購入いただくか、後日さしす文庫のBOOTHで販売される電子版を購入していただくと読めます。
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