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ファンと推し

いまさらだけど、「推し」って不思議な言葉だ。

「ファン」の言い換えではない。「私はあなたのファンです」の代わりに「私はあなたの推しです」とは言えない。

しかし「〇〇ファン」と言っていた人が、間違えて「〇〇推し」と言うことはできる。言う方も聞く方も気が付かないかもしれないが、文法的には違うことを言っていることになる。

いわばこの「移民」と、「ファン」という言葉を使うことなく気がついたときから「推し」という言葉を使ってきた人たち、すなわち「ネイティブ」との間には、深くて広い断絶が横たわっているように思える。


 私は未だに「推し」という言葉を使ったことがないし、使いたいと思うこともないのだが、なぜかと考えてみると、アイドルに興味がないからだと思う。
 「推し」とは、本来は、それぞれに魅力を持った複数のメンバーのいるグループのなかで、「私は特にこの人を応援している」ことを表明する言葉だろうと思う。
 例えば、「アイアン・メイデンのブルース・ディッキンソンのボーカルが好き」という意味で「ブルース推し」とは言わないだろう。ギターやベースなどの他のメンバーと比べてボーカルのファンである、という認識は、ロックファンには多分ない。バンドとはそういうものだ。
 「メタリカのジェイムズ・ヘットフィールドのボーカルよりブルース・ディッキンソンのボーカルのほうが好き」という意味で「ブルース推し」という言い方もしないだろう。これは比較であって、「特に応援している」という意味合いではないからだ。
 また、メイデンの歴代ボーカル3人の中で「ブルース推し」というのもどうかと思う。3人が同時に活動しているわけではないからだ。
 ただし、ハロウィンのパンプキン・ユナイテッドで、歴代3人のボーカルが勢揃いした状態で「キスケ推し」と言うのは、有効な感じがする。
 まあ、言わないけどさ。

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