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昆虫図鑑がすきだったあの子_vol.6(最終回)

vol.1~5も併せてみてください!
※登場人物はすべて仮名です

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唐突に、しかも第3者から言い放たれた最終日宣告。
私のみならず、ワタル君のクラスの子たちも転校の存在を知らなかったようで、騒然とした様子だ。

想像すらしていなかった状況と、とにかく最後に話したいという焦りとが交錯している。短時間でマイナスとプラスの両極端な感情が波打って頭の中が忙しい。

修了式の挨拶を終えたあたりで、ワタルくん話そうと波打つ頭に鞭打った。悠長としている時間はないのだ。

ところが、その日の運というかタイミングの悪さといったら、おみくじで連続で大凶を引いた感覚に近い。

まず、通常なら集会後は学年ごとに帰るのが、今回に限ってクラスごとになったこと。ちょうど集会が入る数日前から、体育館に工事が入っている関係で入り口が狭くなっていることからの方針転換だ。そのため、クラスが異なる私とワタル君は話すことすらできないまま各教室に戻る羽目になり、タイミングを逃す。

次に、教室に帰ったあとのこと。通常は、集会後は毎回10分ないしは15分の自由時間がある。しかし、修了式後はすぐ夏休みの宿題配布を午前中で済ませなくてはならない関係で、分刻みのスケジュールに実行される。よって、そんな時間が一切持てず失敗。

とどめは帰宅時。終わりの挨拶後、たいてい個人もしくは近くに住む友達でそれぞれに帰るというのが通常時なのだが、この日は大型台風が接近しているため、安全上の観点から毎朝の登校班での帰宅を余儀なくされたのだ。登校班のときは地区別に順々に生徒が抜けるしくみなので、120%被らない。

そう、よりによって、よりにもよって今日という日に限って、
スケジュールとタイミング共に、ワタル君に話しかけるどころか、まともに顔を合わせることすらできないまま、本当にお別れになってしまった。

あまりにもあっけなく、突然だった。

のんべんだらりとチャンスを伺っていた受動的な自分が許せなくて、
好きの気持ちを伝えるチャンスすらなくなってしまったことが悲しくて、
後悔で半泣きになりながら下校した。
登校班のお兄ちゃんはそれまで見たことのない表情をした私をみて「大丈夫?学校で何かあった?」としきりに心配してくれたが、ただひたすらに首を横に振ることでやり過ごすこしかできなかった。

こうして最後まで、ワタル君への想いをひとり胸に秘めたまま、初めての恋は終わりを迎えた一一。



「昆虫図鑑だ、懐かしい」
あれから20年もの歳を重ねた私は、本屋で見かけたそれを思わず手にとっていた。
パラパラとページをめくりながら、当時の記憶がぶわっと駆け巡る。

何年経っても、あの日の後悔と、それまでの一緒に過ごせた嬉しかった瞬間が映像として浮かんでくる。
それだけ大切な想い出だったんだなぁと改めて自身の記憶でもって思い知らされる。これからも記憶の中枢に残っていくのだろう。

最後まで、どこかミステリアスで、博識で、三日月な目の形をした昆虫図鑑がすきだったあの子。
いま、どこかで幸せに過ごしていることを願う。



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