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昆虫図鑑がすきだったあの子_vol.3

こちらはvol.1,2の続編となります。
ぜひ以下も併せてお読みください!

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思わぬ強運を手にし、話す機会をもてた私。
互いに自己紹介を済ませたあと、
「いつもずかん読んでるから、気になったの。あんまりおしゃべりできなくてごめんね」
とあのときのことを話すと
「だいじょうぶだよ。これね、ぼくがお父さんにお願いして買ってもらったんだ。」
と、何事もなかったかのように話してくれた。
ワタルくんは図鑑を読み漁る印象とは違う、気さくで、自然と会話が続く男の子だった。

遠足当日もワタルくんの隣で歩いた。彼について聞けたことは

7才の私が聞いたことも行ったこともない場所に住んでいて、いつも学校には歩いて40分かかるんだって。好きなたべものは梅干し。
ともだちはすきだけど、本を読む時間もすき。
小さい頃から、冬以外はお父さんやおじいちゃんと一緒に虫を採って観察していて、将来は虫博士になりたいらしい。

これ以外にもたくさん。ワタルくんと話すときは、いつも知らない世界を覗いているようでわくわくするし、自然と笑ってしまう。

充実の遠足から帰宅後、私の異変が始まった。大好きなテレビ番組をみても、お気に入りのアニメをみても、どこかうわの空なのだ。
今日の出来事や初めて話せたときの絵が紙芝居のように浮かんでは次の絵にスライドして集中できないのだ。


何なんだろう、この感じ。


これまで、保育園や小学校でできた大好きな友達とおままごとやかけっこで遊んで笑うことなんて山ほどある。そんな日は決まって、家に帰れば楽しかったと記憶に納めて、明日もたくさん遊ぼうと自動的に切り替えられていた。

だが、今日は違う。明日に切り替える以前に、記憶のバケツがパンパンに埋まって、なんなら溢れていて自身では整理できない状態になっていたのだ。

次の日、私はまだ容量オーバーの記憶を抱えながら学校に着いた。
そうするとカオリちゃん(保育園時代の友達)がこちらに向かって猛ダッシュし、耳元で
「ねぇねぇ、聞いてよさしみちゃん!カオリね、同じクラスの○○くんのこと好きになっちゃった。おうちにいても考えちゃうし、話せるととっても嬉しいの。他の男の子も仲良しだけど、○○くんだけそう思っちゃうの。だからこれは、好きっていう……」

ここまで話を聞いた時、私はもはやカオリちゃんの好きなひといます宣言は耳に入ってこず、それよりも昨日の情景リピート再生の理由が"恋"や"好き"などという今まで経験したことのない感情をワタルくんに抱いていた事実に思考ショートしていた。(続く)

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続きのvol.4は以下からご覧ください!


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