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#短編小説
小判食え #毎週ショートショートnote
御触書
妖怪小判食への出現に注意
次を厳守せねば、即ち小判を食わされん
一、夜間は町へ遊び出るべし
一、家屋、道路、及び水路は先んじて汚すべし
一、田畑の手入れを怠るべし
――――
「じいよ、民の様子はどうじゃ」
「予定通りにございます。治安は改善し、景観は保たれ、稲の方も順調にございます」
「小判食えなぞ、おるわけないのにのう」
「庶民の卑しい心を上手く利用されましたな。あっぱ
ごはん杖 #毎週ショートショートnote
「ねぇ、これなんて読むの?」
妹は、双子の兄に、読めない漢字の質問を投げかけた。別に、そこまで本気知りたいと思っているわけでもないのだが、とりあえず兄に聞くのが手っ取り早いという非常に打算的な発想だ。
「見せてご覧?」
兄は、天才の気があった。妹を含む、同級生たちと比べれば圧倒的に学力が高い。それに、自分はお兄ちゃんなんだという自負がある。妹からの質問に答えられないなどあってはならないのだ。漢
親切な暗殺 #毎週ショートショートnote
「今日のターゲットは?」
ビルの屋上。いつものように淡々と準備をする俺の後ろから、問いかけが聞こえてきた。
「ねーえー。無視しないでよ」
放置しすぎれば、面倒なことになるのがわかっている俺は、嫌そうな素振りを振りまきながら徐ろに声のする方へ振り返った。
「仕事中は話しかけるなと言ってるだろう」
「いいじゃない、誰もいないわよこんなとこ。それで、誰なの?」
金髪碧眼で、真っ白なワンピースを着た
数学ダージリン #毎週ショートショートnote
「先生! 合格でした!」
僕が人生最大の喜びを最初に伝えた相手は、家庭教師をしてくれていた大学生のマリ先生だった。
「おめでとう。頑張ったね」
電話越しに、いつものように優しい声で、先生は僕を労ってくれた。
「先生のおかげです。本当にありがとうございました」
僕は本心から感謝を告げた。実際、彼女に見てもらった1年半で、どん底だった僕の成績も志望校を狙えるところまで成長したのだから。
どの
秋の空時計 #毎週ショートショートnote
「こら! 窓の外ばっかり見てないで、授業に集中!」
出席簿でバシッと頭を叩かれた俺は、「すみません」と頭を下げて、前を向き直した。もう一度、ちらりと窓の外に目をやると、宙に浮かぶ半透明の巨大な砂時計が時を刻み続けていた。
三年前の夏。ある日突然、その砂時計は姿を現した。当時は空前絶後の大騒動となり、付近に住む住民の避難や自衛隊の出動など、非日常の光景が繰り広げられた。
その後、砂時計の謎は
なるべく動物園 #毎週ショートショートnote
親たちの言い合いが聞こえてきて、僕はおもちゃを手にしたままひっそりと息を潜め、耳を澄ました。
「仕事ばっかりじゃあの子達が……」
いつもの通り、お母さんがお父さんに小言を言っているようだ。
「わかってるさ、次の日曜はなるべく動物園にでも……」
動物園!その単語を耳にして、僕は踊る心を抑えるのに必死だった。僕は眼の前でお人形遊びをしている妹にも教えてあげなければ、という使命感に燃えた。
僕
呪いの臭み #毎週ショートショートnote
「うわっ、なんですかこのにおい!」
部室の扉を開けた僕は、強烈な悪臭に顔をしかめた。
「やあ、遅かったじゃないか」
3年の先輩たちは卒業していき、部員はもう二人だけとなったオカ研部室。真っ黒なローブ(近所のホームセンターで買ってきた布切れで作ったもの)を身にまとった先輩が、グツグツと煮立った鍋をかき混ぜていた。
「先輩たちがいなくなったからって、自由過ぎですよ。今日はなんですか?」
問いか
カフェ4分33秒 #毎週ショートショートnote
「『静寂と平穏を愛する人のための純喫茶』が、取材なんて受けてくれるわけないですよ!」
新人記者の小町は、さっきの会議で手渡された資料を片手に、編集長に泣きついていた。
「上の決定だ。意地でもなんとかしろ! 次また失敗したらクビだぞ、クビ」
「そんなぁ……」
――都会の喧騒から少し離れた郊外。閑静な住宅街に佇むその店、「カフェ4分33秒」に小町は訪れていた。玄関には『未成年、2人以上、飲酒後の
イライラする挨拶代わり #毎週ショートショートnote
「お前が魔王か?」
不躾に扉を開け放ち、勇者が入ってきた。
「貴様に名乗る義理は持ち合わせておらん」
「チッ、まずは挨拶代わりだ! 喰らえ!」
勇者は懐から何かを取り出し、天に掲げた。刹那、閃光が走る。
「くっ、魔道具か小賢しい……」
閃光が収まる。奇襲でも仕掛けてくるかと思ったが、勇者の方に動きはない。
「魔王弱体化の宝珠だ! 王国宮廷魔術師軍団特製だぜ!」
なるほど、人間た
鳥獣戯画ノリ #毎週ショートショートnote
「ぎゃー!」
目眩がしてぼーっとしていたところに、悲鳴が飛び込んできて目が覚めた。悲鳴が聞こえた方に目をやると、そこには、等身大のカエルがいた。
「ぎゃー!」
俺も思わず悲鳴を上げてしまった。その声でまた向こうも悲鳴を上げた。
――悲鳴のラリーが3回ほど続いたところで、向こうの口から聞き馴染みのある声が聞こえてきた。
「あれ、も、もしかして、シンジ?」
「その声は……コーちゃん!?
告白水平線 #毎週ショートショートnote
「ねえ、ウミガメのスープって知ってる?」
下校中、綾は幼馴染の圭太にそう話しかけた。
「ああ、水平思考ゲームってやつだろ? YESかNOで答えられる質問で状況を絞り込む、みたいなの」
「それそれ。私さ、問題考えたから、やってみない?」
「すごいじゃん。いいよ」
「じゃあ、問題。アヤはケイタと遊んでいると、胸が苦しくなります。なぜでしょう」
圭太は、少し焦った様子を見せながら質問を始めた。
「
未来断捨離 #毎週ショートショートnote
『絶対に夢を叶える方法』。そう書かれた本を見つけたのは、私が小学生の頃だった。町の古本屋で見つけたそれを、興味本位で手に取った私は、以来、その本を人生の指針として生きるようになった。
その本に書かれていた方法は単純明快だ。「夢を達成するために不要なものはすべて捨てろ」というものだ。
私の夢。それは、弁護士になること。その夢を叶えるために、私はゲームやおもちゃを捨てた。習い事もすべて辞めたし
最後のマスカラ #毎週ショートショートnote
「ウチもここまで、か……」
亜美はビルの屋上へ逃げ込んできていた。閉めた扉も内側からガンガンと殴られていて、長くはもちそうにない。
街中がゾンビで溢れた、あの最悪のパンデミックから命からがら生き残ってきた彼女も、もう限界が来ていた。ここが自分の死に場所だと悟った。
体中傷だらけの彼女は、残った体力をふり絞り、肩にかけた小さな鞄から、鏡と、探索中唯一手に入れられた化粧品のマスカラを取り出し
秘密警察を宣伝してみる #毎週ショートショートnote
「パパは秘密警察で、日本を守ってるんだぞ。 凄いだろう!」
休日の男は、誰にも打ち明けてはならないはずの秘密を、今年の春、小学校に入ったばかりの娘へ打ち明けていた。娘にかっこいい所を見せたいという見栄は、規則には勝てなかった。
「パパすごい! おうえんしてあげるね!」
娘はきらきらとした表情で、画用紙に何かを書き始めた。そこには、可愛らしく描かれた父親の似顔絵と、習ったばかりのひらがなで、応