未来は予測できる?
こう言う質問をすると、「ナンセンスだ」、「占いみたいなもので、たまたま合うだけだ」、と言う意見が出てくる事は容易に想像できます。
今を遡る事23年前。1999年に私は妻と結婚しました。当時まだ博士課程の学生だった私にとって、自分の未来がどうなるのか?と言うのは見えないものでした。
【世紀末思想】
そんな1999年。今でも覚えているのは二つの出版物。一つ目は、かの有名な「ノストラダムスの大予言」。当時、話題のシリーズ本でしたが、予言が外れた途端にクズ本のように扱われていたのを記憶しています。
もう一つは、週刊少年マガジンに連載されていた、『MMR マガジンミステリー調査班』。キバヤシ、と言う名前が懐かしい同世代の方もいらっしゃるかと思います。何度か連載終了、復活を繰り返していた記憶がありますが、世界が滅びなかった後はは復活しなかったですね。。。
ああ言う思想が流行った背景には、誰もが持っている未来への漠然とした不安感があるのだと思いますが、あれらの出版物でやられていた事は、予言で語られる結果があり、それに紐付けるように、でっちあげの因果関係が示される、と言うものではないかと思っています。つまり、ある結果(1999年に世界が滅亡する)を導くために都合の良いストーリーが作られる、と言うことです。
【実は予測されていたロシアの侵攻?】
今年の2月に始まったロシアのウクライナ侵攻。春頃に一部で話題になった書籍があります。それは「プーチンとロシア人」。ロシア研究の第一人者である故木村汎(きむらひろし)氏の著作です。
元々は1981年に「ソ連とロシア人ーその発想と行動の読み方」と言うタイトルで発売された著作に、ソ連の崩壊からプーチン政権までに起きてきた事、そしてクリミア併合などの最近のロシア情勢も踏まえて大幅に加筆され、2018年に出版されたのがこの著作です。
しかし驚くべきことに、4年前に書かれている内容は、まさに今起きているロシア情勢、プーチンによって引き起こされている事そのものなのです。
【同じことが繰り返される、と言う予測】
なぜそんなに的確に予測がされているか?
その一つの説明は「同じことが繰り返されている」からです。では何が繰り返されているのか?一つにはクリミア併合の際にプーチンが行った“ 政権が不安定になっている隙を狙って、ロシア国民を守ると言う理由をつけて武力侵攻し、住民投票という体裁で支配下に置く”事が挙げられます。では、プーチンが特別なのか?と言うと、過去のロシアと言う国で起きてきたことが繰り返されている、と言うのが木村氏の考えです。
ちなみに、改訂版を出版しようとしたきっかけも、初版出版当時に主張していた考えの大部分が、約40年後でも成り立つことに気づいたから、とのことです。
【なぜロシアのような行為が罷り通るのか?】
その答えは、ロシアと言う国で昔から何度となく繰り返されてきたことだから、と言うのが木村氏の見解です。その点については、地政学と文化人類学的な観点から面白い分析をされています。
・周囲に海や山と言った天然のバリアがないので、あれだけ大きな国土を持ちながら、周囲の国からの侵略に怯えていて、緩衝地帯を持たないと安心できない。
→今回のウクライナのNATO加入問題が発端になった。北方領土も緩衝地帯なので、ロシアが外交的に手放す事は考えにくい。
・国民は自分の自由が大事で、労働が嫌いな怠け者。それを束ねる国のトップには独裁的なリーダーがいないと国がうまくいかないので、国民はそれを許容する傾向がある。
→ロシア時代の皇帝たち、ソ連時代の独裁的指導者、そしてプーチン。大量粛正等を行なってきたにも関わらず、国民からの支持は厚かった。
・国民は権力に対しする外の顔と、家族友人に対する内の顔を持ち、内では不満を持っていても、権力に対しては従順である顔を崩さない、忍耐強さを持っている。
→ この状態でもロシア国内でのプーチン支持が変わっていないように見える。
これらは一例ですが、木村氏の分析を考慮に入れると、ロシアの暴挙に対する国内世論の動向なども納得できてしまいます。
【外交で日本が優位に立てない理由】
ロシアの外交スタイルは、そもそも譲歩や妥協という概念がなく、相手が譲歩しようものなら、ズケズケと踏み込んでこられます。そして、外交の窓口となる人間は、他の国からどう思うか、などは気にせず、トップが決めた主張を貫く事に徹する、とのこと。今のラブロフ外相を見ているとまさにそうですよね。そして、「きっと相手もわかってくれる」と言う旧来の日本的な外交スタイルでは、決して成功しないと言うのも腑に落ちるのです。
【文化人類学xストーリー】
最近、しつこいほど書いているこのキーワードですが、この本を読んで感じた思いをうまく言語化してくれるキーワードでした。
3年前に亡くなられた木村氏が、今のロシア情勢を見たら何を語ってくれるのだろう、と少し残念にも思うくらい、私の中で学ぶことが多かったこの本。とてもおすすめです。
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