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25.種から育てるコバノミツバツツジ

 庭や鉢に植えるコバノミツバツツジは、最近はときどき園芸用品店で見かけるようになり、ネット販売もあります。しかし販売されている苗木は、本当にコバノミツバツツジなのか、他のミツバツツジ類なのかは区別がつかないあやしい品が多く出回っています。

 東京都の神代植物公園を訪れたときに、業者からホンミツバツツジ(Rhododendron dilatatum)を購入したけれども、コバノミツバツツジ(Rhododendron reticulatum)ではないかと判断を求められ、指摘のとおり取り違えられていたことがありました。1.7haと広い神奈川県のあつぎつつじのおか公園でも、多目的広場(芝の広場)の西からその北の遊水地にかけて、再現した雑木林の中に植えられていた数十株は、関東には自生しないコバノミツバツツジ(Rhododendron reticulatum)でした。もちろん、関西ではその逆の取り違えもあります。ホンミツバツツジは区別するためにつけられた最近の名前で、ミツバツツジという和名が種なのかミツバツツジ類な、どちらを指すのか混乱しています。公共の場で数多く植える場合は、基本的に郷土種を植えるべきです。個人的に庭に植える場合は、これらの種の違いを理解したうえで植えたいものです。

 庭木としては、いずれも「岩つつじ」の名で、千葉県の房総半島ではキヨスミミツバツツジ、ホンミツバツツジが、鹿児島県や宮崎県南部ではハヤトミツバツツジが、園芸農家で栽培されて、販売されています。これらの地域はもとより、埼玉県、東京、神奈川県の西部の山麓から、静岡県の一部、長野県の伊那谷、愛知県東部では、1株から数株のミツバツツジ類が植えられている庭をよく見かけます。ただし、コバノミツバツツジが多く自生する地域では、自然に生えてきたり、それを庭の中で移植することはあっても、わざわざ庭に植える例は、今まで少なかったです。

千葉県大多喜町の岩つつじ農家
キヨスミミツバツツジ、ホンミツバツツジが岩つつじとして販売されています

 さて、庭木、鉢植えのコバノミツバツツジを得るには、購入するほかに、種から育てる播種はしゅ、挿し木、山取やまどりがあります。著者は、10年以上前から播種はしゅを行い、難しいとされて歩留りが悪い挿し木にも挑戦し、裏山の山路整備で踏みつけられる幼苗ようびょうや通行の邪魔になる若木の山取やまどりをしています。自分の家の庭でも、勝手に生えてくるので、幼苗ようびょうを移植しています。なお、関東や南九州では、自然のミツバツツジ類が激減したので、安易な山取やまどはやめてください。

イノシシに根を掘り起こされたコバノミツバツツジを3月に山取りして畑の脇に植えました

 今回は比較的簡単な、播種を説明します。コバノミツバツツジの種は、蒴果さくかという1cmほどのこげ茶色で細長い実の中に入っています。12月ごろから、実った蒴果さくかは乾燥すると、縦に割けて、中から100以上の1mmの茶色の種が飛び散ります。この蒴果さくかを、11月下旬から12月の晴れて種が乾いた日に摘み取ります。

コバノミツバツツジの蒴果さくか

 蒴果さくかは、カビがはえないように自然乾燥させたあと、袋や容器に入れて、冬の間は暖房がない涼しい場所で保存します。種は高温や多湿で保存すると発芽率が低下します。だから、低温・低湿の環境で保存することが大切です。

コバノミツバツツジの1cmの蒴果と1mmの種

 播種は発芽率が高くなる4月下旬から5月に行います。容器の中で振ると、蒴果さくかから種が出てきます。ツツジ類は酸性を好むので、用土は、育苗箱の上に、細粒の鹿沼土と赤玉土を半分ずつ、あるいは市販の育苗用の土と細粒鹿沼土を半分ずつ混ぜて敷いた上に、水苔を細かく砕いて載せます。ここに保存しておいた種をきます。タネは小さいので、2つに折った紙などに乗せて、下からトントンとたたいて少しずつ振るい落とすように満遍なくくとよいでしょう。日に当たって発芽が促進されるので、土はかぶせません。水苔が乾かないように、水やりをします。コバノミツバツツジは、自然の状態では、苔の上、腐葉土の上、岩の割れ目で、発芽しています。育苗箱は、少しは日が当たる程度の場所に置きます。

育苗箱

 3週間ほどすると、コバノミツバツツジが発芽して、二葉が出てきます。梅雨時は水苔は乾きにくいですが、盛夏は水やりを欠かさないでださい。1年目の成長はとても遅く、年末になっても高さが1cmぐらいで、数枚の小さな葉が出るだけです。

コバノミツバツツジの発芽

 できれば、地元で採取した種を、子どもたちと一緒にいて育てるとよいでしょう。

小学校1年生が銀紙に包んだコバノミツバツツジの種をポットにまきます
一人ひとりが種をまくには育苗箱よりポットがよいです

 2年目は、霜が降りなくなった3、4月に、苗を2号ポット(径6cm)に植え替えます。土は酸性を保つことと、肥料が多くならないようにします。ポットの底に水苔を敷き、小粒の鹿沼土、小粒の赤玉土、バーク堆肥または草花の培養土を、1/3ずつ混ぜた土に移植します。痩せ地に育つので、肥料は夏場に遅効性の、油粕を少々か、花の肥料のフラワーボール1粒で十分です。ポットはなるべく日が当たる場所に置きますが、乾燥しすぎないように水やりは欠かせないようにしてください。ポットに生えてくる雑草は取り除いてください。2年目も、高さが5cmぐらいにしか成長しません。

 3年目は、4号鉢(径12cm)か径9cmロングポットに植え替えます。用土は2年目と同じです。水やりも同様です。肥料は、油粕かフラワーボールを、3回ぐらい与えるとよいでしょう。うまくいけば高さが30cmぐらいまで成長します。

育ちの良い苗の、2年目(4号鉢)、3年目、4年目(6号鉢)の夏
育ちの良い2年目の苗を5月に4号鉢に植え変えた

 4年目以降は、5号鉢(径15cm)、6号鉢(径18cm)、径12cmや15cmのロングポットと、大きな鉢に同様に植え替えるか、地植えします。盆栽に仕立てている人もいます。今まで育てた苗は、小学校の法面に植え、お寺に寄進し、友人にお譲りしました。コバノミツバツツジは活着するまで根が弱いので、地植えでは、水が切れたり、雑草に覆われて、枯らした例も多いです。植えた年と翌年に基本的な手入れをすると、あとは根付いて、維持が楽になります。5,6年目から花を咲かせます。

小学校3年生によるコバノミツバツツジの育樹
バラの間に植えている

 コバノミツバツツジの根は横に広がるので鉢を使ってましたが、今年2024年からは、根の活着を考慮した植え替えやすさから、ロングポットを使いはじめました。

径9cmロングポットに植えた2年目と3年目の苗

 小学校の法面に植えたコバノミツバツツジは、草刈りや日照り続きのときの水やりのための訪問が大変で、良く枯れましたが、何とか花を咲かして活着させています。

小学校の法面に植えたコバノミツバツツジ 6・7年生の若木

 温室、冷蔵庫、殺菌処理、照明管理などの実験室や使った種苗の試みは、森本淳子らの論文で紹介されています。自宅でも簡単に試みることができれば、発芽率や苗の歩留りを高めることができるでしょう。

 今後、コバノミツバツツジの愛好者を増やすために、育樹の方法を広め、各地の名所を巡るツツジ旅の情報を伝えて交流し、滋賀県湖南市産の我が家の苗を適切な価格で販売することを考えていますので、宜しくお願いいたします。
 
森本淳子、柴田昌三、長谷川秀三「野生ツツジ2種の地域性種苗の生産技術」2003 日本緑化工学会誌 29 巻 2 号 p. 360-366


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