DVD上映会と著作権法
こんにちは。梨木笹綱と申します。twitter上ではSaSa_RX( @sasarx )と名乗っています。このnoteは、おもにファン同士のオフ会でDVDを上映(再生)したい方向けに執筆しました。
【改定履歴】
2021/5/12 v2.0 かなり加筆修正
2021/11/15 v3.5 文科省へのリンク、「公衆」とはなにか?、ケースA:おすすめの実施方法を加筆修正
2021/11/17 v3.5.1 一部デッドリンク修正
2022/10/6 v2.1 noteの新レイアウトに準拠、一部表現を修正
2023/1/17 v2.1.1 一部デッドリンク、表現修正
2024/8/13 V2.2 一部デッドリンク修正
【はじめに】
アニメや音楽のファン同士が集まるオフ会。近年SNSの発達により、いっそうこうした交流の場が増えています。今はなかなか人が集まる機会を作るのは難しい状況ですが、コロナが落ち着いたら、オフ会やろうかなと思っているひとも多いでしょう。
その一環として「市販のDVDをファンの仲間と一緒に観る」という、いわゆる「円盤上映会」が開かれることも少なくありません。すこし法律に関心のある方であれば、著作権とのかかわりが気になるのではないでしょうか。
ここで一例を出します。
・「少数の参加者を指名して(たとえば自分と家族で)市販のDVDを観る」
・「参加者を公募して(たとえばネットで公募して)市販のDVDを観る」
この2つは、著作権法上の取り扱いが違います。
もしあなたがオフ会の主催者で、この違いがわからず上映会をやろうとしているなら「著作権侵害のおそれがある上映会」を開いてしまっているかもしれません。
実際に、ファン同士の上映会を開こうとして、その方法に問題があったために、メーカーから著作権侵害を指摘されて中止となった事例もあります。裁判で著作権侵害が認められた場合、刑事罰として「10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金」となります。
私は今までに数回、後者の「ネットで参加者を公募してDVDを観る」、いわゆる円盤上映会を実施しました。自分で法律を調べたうえで、法律の専門家、上映会の実施経験がある方に相談し、無事に上映会を行うことができました。
その際に感じたのは、こうしたDVD上映会に関しての書籍や、ネット上でのまとめがほとんど皆無だ、ということです。正直、自分が納得して「これなら間違いなく適法な開催方法だ」と感じられるまでに、2年ぐらいかかってしまいました。
もちろん実際の上映会、特に不特定の参加者を募る場合においては、事前に法律の専門家に相談するのを必須としていただきたいのですが、相談する前段階においても、自分自身で調べておくのは大事でしょうし、なにか質問を受けた際に、答えるのは自分です。その際の手助けとなるように、本noteを作成しました。
本noteでは、あなたが上映会を企画したい主催者だったら、と仮定して、
・ケースA : 少数の参加者を指名して開催する場合(この前半部分まで無料公開)
・ケースB : 参加者を公募して開催する場合
という、参加者の形態別に2つにわけ、実際の法律を確認しつつ「どうやれば適法に開催できるのか」、そして「法律以外の部分の上映会のコツ」をまとめました。
【本noteの注意点(必読)】
このnoteは、もともと著作権法ド素人の私が、自分で著作権法を調べ、複数の法律の専門家にしつこく問いただし、あと過去に上映会を主催された方々にもこってりしつこく伺って完成した、苦闘のまとめです。このnote内には、法律の解釈以外にも、私が経験をつんだうえでみつけた具体的事例やテクニック、方法論などの部分もあります。
できる限り間違いのないよう執筆したつもりですが、私がこのnoteで提供できるのは知識と経験談だけです。あなたのオフ会(上映会)に法的なお墨付きを与えられるわけではありません。この記事を読んだり購入した結果、何かの損失や損害が出たとしても、その責任はあなたのものです。筆者は一切責任をとりません。なにか大規模なことをやろうとした場合は、これをガッツリ読んだ上でなおかつ、あなた自身が【知的財産権を専門とする】弁護士や行政書士の方へ、足を運んで相談してください。私はそうしました(ちなみに、知的財産権を専門としない方だとトンチンカンなことを言われたりしますので気を付けてください)。
決して、私を含めたネット上の「(自称)専門家」の情報を鵜呑みにすることのないようにお願いします。
【表記と例外事項】
本noteでは便宜上「市販のDVD」という表記に統一しますが、「市販のブルーレイ」でも「市販のビデオテープ」でも同じです。
そして「レンタルやダビングしたものではなく、正規購入したDVDを上映する」という前提で話を進めます。レンタル店との契約や、ダビング(私的複製)が関わってくると、さらに話がややこしくなるので、本noteの対象外とします。
また市販のDVDの上映ではなく「YouTubeなどのネット動画配信をみんなで観たい!」という場合も、本noteでは対象外とします。これは「DVDを再生する」のと「ネット動画を再生する」のでは、著作権法上の取り扱いが違うためです。
ケースA:少数の参加者を指名して開催する場合
【概要】
少数の参加者を指名して上映会を開催する場合は、参加者が「公衆」ではない、ということになります。イメージとしては「主催者の身内だけの上映会」が近いです。そして、「DVDを自分ひとりでみる」ときもこれに該当します。
この場合は、著作者の持つ「上映権」がおよばないので、著作者に無断で上映できます。参加者から参加費をとることもできます。。。というか、あなたが主催者のとき「著作者に許可をとらず、なおかつ参加費をとりたい」なら、おそらくこの方法しかありません。
カラオケ店で「DVDを持ち込んで上映会ができます!」といったサービスは、こうした場合が前提になっていると思われます(※この場合、カラオケ店は主催者でもなければ参加者でもなく「場所と設備を貸しているだけ」の立場です。カラオケ店がDVDを用意している場合は別ですが)。
【詳細】
法律を順に確認していきます。
とあります。DVDを再生することは法律上「上映」と定義されています。再生画面の大きさにかかわらず、小さなノートPCの画面でも、300インチのスクリーンでもどちらも「上映」です。
(「公衆送信されるものを除く」について:「公衆送信」というのは、TVや有線放送、そしてYouTubeなどの「ネット動画配信」のことです。そういうのを視聴・再生するのは「上映」の定義には含まないということです。冒頭にも書きましたが、本noteでは公衆送信については取り扱いませんのでご了承ください。)
上記の2つを併せて読むと、DVDを「公に上映」する権利(上映権)は、著作者が独占しているということがわかりますね。著作者以外の者が、無断でDVDを公に上映することはできない、ということです。ここで単に「上映」ではなく「【公に】上映」とあるのがポイントです。
「公に」=「公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として」ですから、逆にいえば、公衆相手ではない場合は、当然上映権が及びません。著作者に無許可で上映ができる、ということです。
それでは「公衆」とはなにか? 法律によって定義が違いますが、著作権法そのものには次のようにあります。
これだけではちょっとわかりづらいですね。文化庁による次の説明がわかりやすいです。
要するに
公衆 = 不特定の人 or 特定多数の人
ということです。ここで「特定 / 不特定」「多数 / (少数)」という言葉が出てきましたが、これらの説明はあとで行います。ここでまずは
・公衆ではない人 = 特定少数
・特定少数なら「公衆」ではないから上映権が及ばないので、無許可で上映できる
ということを確認してください。
よくある勘違いですが「家庭内」かどうかは問題ではありません。DVDのパッケージなどに「家庭内視聴」という言葉がよく使われているので間違いやすいのですが、著作権法的に「家庭内」かどうかが関係してくるのは、DVD等を複製(コピー・ダビング)しようとした場合です。これは著作権法第30条にありますので、興味のある方は調べてみてください。
・「特定 / 不特定」の違いとは
いろんな考え方があるようですが、わかりやすく言い換えると「主催者が個人を指名した場合」はまちがいなく「特定」です。
・自分ひとりで観る
・自分の家族と観る
・友達のA君とB君を指名して、一緒に観る
以上のような場合はすべて「特定」です。
逆に「誰でも観られる場合」は、先の文化庁の説明にあったように、たとえ結果として参加者が1名だったとしても「不特定」です。
・「少数 / 多数」のボーダーラインとは
では「公衆」ではないとされる特定の「少数」とは、何人までなのでしょうか。
結論としてケースバイケースです。杓子定規的なボーダーラインが設定できるかどうかということもふくめて、法律の専門家でも意見がわかれています。「10人未満が穏当」とされる専門家もおられれば、文化庁の「著作権テキスト」には、
とあります。ちなみに2020年までの文化庁のテキストには、太字の部分は
とあって、「50人未満(50人を超えれば多数)」という見解が記載されていましたが、2021年のテキストではこの数字が外れています。なので、場合によってはそれ以下かもしれないし、それ以上かもしれない、ということです。
「法律にはっきり書いておいてくれればいいのに!」と思われるかもしれませんが、法律に人数が明示されていないことにも理由があるようです。著作権法上の「公衆」というくくりは、上映に限らず、上演、演奏、展示、公衆送信にもかかわってきます。さらに、以下の判決文をご覧ください。
要するに、著作物が利用される状況というのは千差万別です。それゆえもし「公衆に対する使用行為かどうか」を争点として裁判に至ったときは、それぞれのケースに応じて「社会通念上適切か否か」≒常識的に考えてどうなのか?という点から判断すべきだ、という判決です。
ちなみに著作権法で「公衆」の定義に内包される「特定多数」とはどういう形態かというと、「大会社の社員100人」とか「うちの高校の卒業生1000人」とかそういう状況です。確かに特定されていますが多数なので、こういう場合は公衆の定義に含むよ、というわけです。
【おすすめの実施方法】
こうした法律と判例をふまえて「上映会をやりたいけれど、著作者に許可を取らず、かつ費用を参加者から徴集したい」といった場合は、私だったらこうします。
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