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【第5章】 超ミラクル 〜前編〜
第1章『 ピエロ 〜前編〜 』
前話 『 化け猫 〜後編〜 』
「ううう……」
右のツバサに五寸釘を打ち込まれたような激しい痛みが走り、あたしは目を覚ました。
そこはいつも寝泊まりしている、ハシブの巣の中だった。
「気がついたガア?」
横たわっているあたしの顔を、ハシブが心配そうに覗き込んでいる。
「あたし……助かったんだ……」
ハシブが笑顔で何度もうなずき、
「もう大丈夫だガア。たまたま、ドブネズミと一緒に河川敷を歩いているミーちゃんを見かけた奴がいて、な~んか怪しいと思って、秘かに空を飛びながらあとを尾けたんだガア。そしたら二人が山の中に入ってしまったんで、しばらく上空を旋回しながら待機してたら、ドブネズミだけが山の中から飛びだしてきたんだガア。それですぐ、ドブネズミを捕まえて、すべてを白状させたんだガア。そのあと、仲間のカラスたちを総動員して竹林に向かったら、ミーちゃんが倒れてたんだガア。本当にビックリしたガア~~」
「そうだったんだ……」
涙がボロボロとこぼれ落ちた。
「ごめんね、ハシブ……」
「どうしたんだガア? ミーちゃんが謝ることなんて、なんにもないガア。体が痛くて泣いてるんだガア?」
「ううん、違うの。あたし、ドブネズミのウソにだまされて、あなたたちがあたしのことを仲間外れにしてるって思い込んでしまったの。あんなにやさしくしてくれて、命まで助けてくれたあなたたちのことよりも、初めて会ったドブネズミの話を信じてしまった自分のことが情けなくて泣いてるの……」
「いいガア、いいガア。そんなこと気にすることないガア」
ハシブがツバサを広げ、あたしの頭をやさしくなでながら、
「ドブネズミは小さくて弱いから、生きていくために敵の心をグラグラと揺さぶるのが得意なんだガア。ドブネズミのことなんて早く忘れて、ゆっくり休んで元気になるガア」
「ありがとう、ハシブ……」
重く沈んでいた心が少しだけ軽くなった。
「ところでミーちゃん、お腹減ってるガア? 早く回復するには、天然ものを食べたほうがいいんだけど、やっぱり無理ガア?」
「ううん」
ハシブたちにこれ以上、迷惑はかけられない。
「頑張って、天然もの食べてみる……」
「そうガア! それは良かったガア!」
さっそく目の前に、食べやすい一口サイズにサイコロカットされたピンク色の生肉が置かれた。
「手始めにコレを食べてみるといいガア」
「う、うん……」
血にまみれた生肉にうろたえながら、
「あ、あのさ……このお肉って、誰の……」
肉体の一部だったの? ときこうとした瞬間、
「皮を剥いでさばいたばっかりだから、とっても美味しいガア」
ハシブがクチバシで生肉をくわえ、差しだしてきた。
あたしは意を決して目をつぶり、まだほんのりと生温かい生肉をクチバシの先で受け取ると、一気にノドの奥へゴクンと呑み込んだ。
「どうガア?」
ハシブの声に、あたしはギュッと閉じていたまぶたをゆっくりと開いた。
「うん、美味しい……」
本当は、味なんてちっとも分からなかった。
でも、生肉を呑み込んだ瞬間、たしかに命のエネルギーをもらった感じがした。
「良かったガア! じゃんじゃん、食べるガア!」
ハシブがせっせとピンク色の生肉を、あたしの前に運んでくる。
「あ、そうだガア……」
ハシブがニヤリと笑った。
「この生肉、ミーちゃんをだました、ドブネズミの肉だガア」
「え……」
目の前に積まれたピンク色の生肉と、あの憎たらしいドブネズミの愛想笑いがオーバーラップする。
「そっか……アンタも『ハズレ』の道を選んじゃったんだね……」
あたしはドブネズミの生肉をパクパクと呑み込んでいった。
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