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【第6章】 オオタカ 〜前編〜
第1章『 ピエロ 〜前編〜 』
前話 『 超ミラクル 〜後編〜 』
「あたしは、超ミラクルガールなのだ~~!!」
あの伝説の(笑)化け猫事件から、これがあたしの口ぐせになった。
百羽以上のカラスたちが「超ミラクルガア! 超ミラクルガア!」と、あたしのことを励ましてくれている大合唱が、だんだん「超ミラクルガール」に聞こえてきたからだ。
ドブネズミにだまされ、化け猫に殺されそうになった、ダメダメな部分は捨て去って、あの恐ろしい化け猫から唯一生還した「超ミラクル」な部分だけを覚えておくことにした。
だって、そのほうが明るく、前向きな気分になれるから。
化け猫に襲われて重傷だったあたしの体は、二週間の安静期間を経て、空を飛べるまでに回復した。
しかも、大怪我をしたおかげで、天然物(食べやすいものに限ってだけど)を普通に食べられるようになっていた。
でも、依然として、あたしをカラスに変えた黒ジャージーのピエロについての有力情報は、なにひとつ入ってこなかった。
あたしが化け猫に襲われたことをいち早く察知し、救出してくれたカラスたちの情報網をもってしても、ピエロが見つからないということは、どこか遠くの街へ移動してしまったのかもしれない。
それでも、あたしは人間に戻ることを少しもあきらめてなんかいなかった。
化け猫事件のとき、あたしをだましたドブネズミが話していた、あのことがずっと心の中でくすぶっていた。
そう、『金色のカラス』だ。
たしか、ドブネズミの話では『金色のカラス』はなんでも願い事を叶えてくれる、と言っていた。
でも、『金色のカラス』のことはカラスたちの秘密になっていて、よそ者には絶対に教えない、とも言っていた。
ドブネズミはウソつきのベテランで、人をだますのが非常にうまいのは、身をもって分かっている。
でも、ピエロが四週間も見つからないいま、あたしは『金色のカラス』の話がドブネズミのでまかせとは思いたくなかった。
✻
「ねえ、ハシブ~~」
あたしは一緒に空を飛んでいるハシブに、
「『金色のカラス』って知ってる~?」
直球勝負を挑んだ。
「ガア?」
ハシブの眉間にシワが寄る。
ヤバイ……。
やっぱり、カラスたちのトップシークレットだったんだ……。
「知ってるもなにも、ミーちゃんに『金色のカラス』を教えたのは、オイラだガア!」
「は?」
耳を疑うようなハシブの答えに、あたしは羽ばたくことを忘れ、あやうく墜落しそうになった。
「うえええ〜~~!? いつう~~!? どこでえ~~!? あたし、そんな話、ぜんっぜんっ、聞いてないんですけどお~~!!」
すっかり取り乱しているあたしへ、
「なにを言ってるんだガア? ああ、そうがア……」
ハシブが哀れみの眼差しを向けながら、
「……化け猫に襲われたショックで、記憶が無くなってしまったんだガア?」
「無くなってません! 記憶はなにひとつ、無くしておりません! あたしはぜ~~ったいに『金色のカラス』の話を、あなたから聞いておりません!」
「突然どうしたんだガア? 怒ると丁寧語になる性格だったんだガア?」
ハシブが「ガア、ガア、ガア」と笑いながら、からかってくる。
ハシブの屈託のない笑顔からは、とてもウソをついているようには感じられない。
でも、あたしがハシブから『金色のカラス』の話を聞かされていることも絶対にありえない(……と思う)。
いずれにしても、『金色のカラス』の情報を、ハシブから聞きださなくては──。
「じゃあさ、『金色のカラス』は本当にいるのね?」
「当たり前だガア!『金色のカラス』は、初代カラス様のことだガア」
「へ?」
『金色のカラス』の正体は、初代カラスぅ~~~!?
「初代カラスさんって……人間を救うために、太陽のかけらを命がけで運んできてくれた、あの神様の使いだった『ミサキ』さんが『金色のカラス』だったの~~!?」
「ほらあ~~だから~~前に話したって言っただガア~~」
ハシブがあきれ顔で、あたしを見ている。
「で、でも、神様の使いとして働いてたときの初代カラスさんの羽の色は金色じゃなくて、たしか白銀色って言ってたよね?」
「おお! ミーちゃん、なかなか記憶力いいガア。たしかに、初代カラス様の御身体はもともと光り輝くきれいな白銀色だったけど、クチバシにくわえていた太陽のかけらの炎に全身を焼かれて、真っ黒になってしまったんだガア」
「その話は覚えてる! でも、それからどうして、黒色に焼け焦げた初代カラスさんの体が金色に変色したのよ? あたし、その話は聞いてないと思うんだけど……」
ハシブの目がす~~っと横に泳ぎ、
「あ、オイラ、約束があったんだガア……じゃ!!」
急降下して逃亡をはかった。
「コラア~~ハシブ~~! 待たんか~~い!!」
あたしは大声で叫びながら、逃亡犯ハシブを後ろから追撃する。
「ごめんだガア~! 初代カラス様の御身体が金色になったことは、ミーちゃんに話し忘れてたんだガア~! わざとじゃないガア~~!!」
逃亡犯の逃げる速さはハンパなく、まったく追いつけない。
「だったら、いま、教えてくれれば怒らないから、逃げないで話してよ~~!」
「本当に怒らないガア~~?」
「本当に本当! 絶対に怒らないから『金色のカラス』のことをちゃんと話してちょうだい!」
示談成立。
ハシブがやっと、あたしの隣に戻ってきてくれた。
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