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【第2章】 エディブルフラワー 〜後編〜

第1章『 夢現神社 〜前編〜 』
前話 『 エディブルフラワー 〜前編〜 』

 夜の八時過ぎ──。

 身も心もクタクタになりながら帰宅してすぐにシャワーを浴び、身体中の汗やホコリを洗い流した。

 物流倉庫での肉体労働四日目を無事に終え、明日は待ちに待った週に一度の休日、日曜日。

 私は缶ビールを飲みながら、花冠がパッケージされたプラスティック容器をテーブルの上に置き、ノートパソコンを起動させた。

「食べられる花で検索っと……」

 すぐに、エディなんとかフラワーの正式名称がインターネットで判明した。

「へえ~~『エディブルフラワー』っていうんだぁ。うわあ、きれいなお花がいっぱ〜〜い!」

 パソコンの画面には、ローズ、チューリップ、ノースポール、ラベンダー、デージー、マリーゴールド、バーベナ、ミニヒマワリ、カレンジュラ……色彩豊かなお花が三十種類ほど映し出されている。

 エディブルフラワーについて調べてみると、色々興味深いことがわかった。

『エディブル』とは「食べられる」という意味で、観賞用の花とは異なり、食用専門のため農薬等をいっさい使わずに育てられていること。

 ヨーロッパでは数百年も前から、お花を野菜や果物感覚で食べている習慣があること。

 料理にエディブルフラワーをあしらうことで、その彩りが豊かになり、見た目が華やかで楽しくなること。

 お花それぞれに味があり、甘かったり苦かったりするものの、料理の味を邪魔することはなく、うまく取り入れれば相乗効果があること。

 野菜にひけを足らないほどのビタミンやミネラルをたくさん含んでいて、美容や健康に良いこと。

 そして、私をもっとも惹きつけたのが、エディブルフラワーの料理方法だった。

 料理方法といっても、お花を焼いたり揚げたりということではなく、サラダやパスタ、オムレツなどの料理に、カラフルなエディブルフラワーを載せるだけで、魔法をかけたみたいに、魅力的な料理に一変させてしまうのだ。

 なんの変哲もない、一口サイズの手鞠寿司にも、赤や黄色のエディブルフラワーを載せて握るだけで、とってもキュートな南国風の料理に早変わり。

 見栄えの乏しい羊羹やコロッケ、まんじゅうにも、エディブルフラワーをポンポンポンと載せれば、印象がガラリと変わり、その可愛らしさに思わず笑みがこぼれてしまう。

「エディブルフラワーは、料理の新たな魅力を引き出してくれる魔法のお花なんだ……」

エディブルフラワーを検索し終えた私はドキドキしながら、プラスティック容器のフタを開け、コンビニで買ってきたのりシャケ弁当の上にそっとエディブルフラワーを置いてみた。

「すっご~~い!!」

 シャケとのりご飯の上に、花冠を二つ載せただけなのに、コンビニ弁当が別次元の料理にグレードアップ。

 私はスマホで、のりシャケ弁当 with エディブルフラワーを撮影した後、シャケの切り身と一緒に赤いお花を一緒に食べてみた。

 シャケの味しかしなかったものの、きれいなお花を一緒に食べたことで、私もきれいになれたような、心がウキウキするのを感じた。

 私は面白くなって、ガラスコップに入れた麦茶の上にも、紫色のエディブルフラワーをひとつ浮かべてみた。

「やっぱり、エディブルちゃんってスゴイかも……」

 おしゃれな喫茶店のような優雅さを、麦茶が醸し出している。

 お花を散りばめたのりシャケ弁当を食べ終わった後、デザート用に買ったカップアイスの上にも、残りのエディブルフラワーを載せ、その魔法を目で楽しみ、食べてビタミン&ミネラルも補給して、私の心は幸せいっぱい。

「エディブルちゃん、最高~~!!」

 ベッドにゴロンと寝転ぶと、壁にぶら下げていた木札のお守りが目に入った。

『夢現神社』で、『恐』おみくじと引き替えにもらったやつだ。

 物流倉庫に異動させられてから、木札のことをすっかり忘れていた。

 たしか、最悪な時に木札を眺めていれば、なにか良いアドバイスをくれるって、神主さん言ってたよね……。

 木札を壁から外し、
「あの地獄の物流倉庫から解放されるにはどうしたらいいの?」
 文字のような記号がびっしりと彫られた裏面を見つめながら、つぶやく。

 しかし、木面に変化なし。

 木札を手に持って上下に振ったり、木面をすりすりさすったり、色々試みたものの、なんにも起こらない。

「はあ~~もういいや……」
 あきらめかけた、その時──。

 木札の木面がグルグルと渦巻き出し、

『起死回生の種は苦境にあり!!』

 3D状態の立体文字がゆらゆらと宙に浮かび上がってきた。

「スゴ……本当にスターウォーズの3Dホログラムみたいに文字が浮かんでる……」
 木札のギミックに感動しながらも、
「で、苦しい状況の中からどうやって起死回生の種を見つけ出すのかを教えて欲しいんですけど……」

 宙に浮かんでいた3D文字がシュワ~と霧状に消え去り、木面から新たな文字がゆらゆらと浮かび上がってきた。

『チャンスは意外なところから!!』

「意外なところから? あの~~全然思いつかないので、具体的な場所を教えてくれませんか?」

 3D文字がシュワ~と消え、次のアドバイスを期待して待つも、木札からの応答なし。

「ああ~~なるほどね……。抽象的なアドバイスだけ与えて、あとは自分で考えなさい方式なわけね。はいはい、わかりましたよ~~だ……」

 ぶつぶつと文句を言いながら木札を壁に戻して、ハッとした。

「意外なところから……って……」

 頭の中に、赤や黄色の可愛らしいお花がポンポンポンと浮かび上がる。

「もしかして……エディブルちゃん……なの?」

第3章『 トラウマ 〜前編〜 』へ続く。。。

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神楽坂ささら
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