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【第4章】 化け猫 〜前編〜
第1章『 ピエロ 〜前編〜 』
前話 『 ミサキ 〜後編〜 』
カラスになって二週間──。
依然として、黒ジャージーのピエロはまだ見つかっていない。
有力な情報もぜんぜん、まったく、耳に入ってこない。
あたしは本当に人間に戻れるのだろうか……。
日に日に不安がつのっていく。
でも、そんな重苦しい気持ちに押しつぶされないでいられるのは、ハシブや仲間のカラスたちのおかげだった。
ハシブから聞いた初代カラスさんの話や、この二週間でのカラスライフのおかげで、あたしの頭の中に刷り込まれていた、カラスの悪者イメージはすっかり消え去っていた。
カラスたちはとても仲間想いで、あたしみたいな新参者でもいったん知り合いになると、親身になって助けてくれる。
自慢じゃないけれど、あたしのカラス友達は百羽を超えた。
もちろん、人間だったとき、たった二週間で百人以上の友達を作ったことなどない。
それから、あたしはカラスの仲間たちから「ミーちゃん」と呼ばれるようになった。
本名の『美咲』は、初代カラスさんの神聖な名前『ミサキ』と読み方が同じだから、呼び捨てにするのにすごく抵抗があるらしい……。
まあ、そんなわけで、あたしのカラスライフはわりと快適に過ごせているけれど、やっぱりまだ、ミミズや羽虫みたいな生きた昆虫や、動物の生肉は食べられずにいた。
それでも、ハシブたちは文句も言わず、ファミレスやコンビニが賞味期限切れで廃棄した食べ物を毎日運んでくれていた。
あたしもなにか、ハシブたちへ感謝の思いを形で伝えたい……。
でも、なにをプレゼントしたら喜んでもらえるんだろう?
色々と考えて、最終的に導きだした答えはズバリ、添加物ゼロの天然もの、だった。
あたしはさっそく、ひとりでも捕まえることが出来そうな獲物を物色するため、上空へ飛び立った。
✻
一時間後──。
「みい~~つけたあ……」
ついに、そのときがやってきた。
まるまると肥えた一匹のドブネズミが廃屋の中から出てきて、塀の上をノロノロと歩いているのを、あたしの視界レーダーがキャッチした。
ドブネズミなら、素人カラスのあたしにも捕まえられるはず……。
ノロノロと歩いているドブネズミに狙いを定め、あたしはツバサを折りたたんで、塀の上へ急降下した。
落下速度が増していき、塀がぐんぐんと迫ってくる。
「うお~~りゃあ~~~」
あたしは奇跡的に絶妙なタイミングで左右のツバサをバッと広げ、八本のかぎ爪をドブネズミの肥えた肉体へ向けて勢いよく突きだしていった。
「ギャッ……」
短い悲鳴をあげるドブネズミ。
ビギナーズラックで、あたしは初めて、まるまると肥えた天然もの(ドブネズミ)を捕まえることに成功した。
あたしの鋭い八本のかぎ爪でがっちりと掴まれた、塀の上に押さえつけられているドブネズミは死んだようにぐったりとしている。
「上出来、上出来!!」
あたしはドブネズミを鷲掴んだまま、塀の上から勢いをつけて大空へと羽ばたいた。
このドブネズミをハシブたちへプレゼントしたら、どんな顔するんだろう?
出来損ないのあたしがひとりで狩りしたのを知ったら、みんなビックリするだろうな……。
想像するだけで楽しくなって、笑いが込み上げてくる。
こんなにワクワクした気分は久しぶりだった。
「恐れいりまチュウ……」
突然、気を失っていたはずのドブネズミが話しかけてきた。
「ひっ……」
動揺したあたしは飛行バランスを崩し、あやうくドブネズミを地上へ落としそうになった。
「な、なんなの、アンタ! ビックリさせないでよ!」
「チュイマセン、チュイマセン……。アナタ様を驚かせるつもりはなかったんでチュウ……」
まるまると太った体をプルプルと震わせて謝るドブネズミ。
あたしは、なんとか気持ちを落ち着かせながら、
「二度としゃべりかけないでくれる? 飛ぶことに集中したいから」
会話を終わらせようとするも、
「あの~~もしかして……」
ドブネズミがおどおどした声で、
「アナタ様が人間からカラスへ変身されたという、あの有名なお方ではありまチュウか?」
ドキン……。
心臓が跳ね上がった。
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