ムジⅦの映画日記『夜明けのすべて』
『ケイコ 目を澄ませて』が話題となった三宅唱監督の最新作『夜明けのすべて』。上白石萌音さん(『君の名は。』)・松村北斗さん(『すずめの戸締まり』)と新海作品と繋がりのある二人が主演ということで新海監督も試写の時点で絶賛されており、期待値が高まった状態で観てきました。
あらすじ
感想(ネタバレなし)
最初こそPMSと周囲の理解との折り合いがつかず苦しむ描写があるものの、転職後は過ごしやすい環境を得られて、藤沢さんにも山添くんにも「優しい」世界が展開されているのが良いなと思いました。クスッと笑えるような描写も中盤以降あって、そんな不器用さも含めて現実の世界でも私たちもかくありたいなと。そんな物語世界をフィルムカメラで温かく儚げに映し出しているのが印象的。そして『キリエのうた』に続いて難役を演じ切っている松村北斗さんの演技力にも脱帽しました。
感想(ネタバレあり)
山添くんから藤沢さんに向けての「(PMS症状が起きた時)3回に1回は救えるかもしれない」という台詞が印象的でした。どれだけ親しくなったとしても人が人を完全に理解することができないし必ず救えるとは限らない、でもこの台詞には救いたいという意志と可能性が込められていると思うのです。
そして恋愛という安易な答えに落とし込まず、でも生きづらさを部分的に共有できる相手として男女の関係性を描いているところも好感を持てました。
最後はみんなが移動プラネタリウムに集まりますが、ある登場人物の日記の一節――「(夜空の良いところは)暗闇を見つめて世界の拡がりを感じる(意訳)」ことだという言葉が読み上げられ、それは映画館も同じだなとも思いました。映画が終わり明かりがつくまでの刹那、「夜明け前」に映画から受け取る感情は人それぞれ。本作のような素敵な一作を胸に、夜が明けた後の世界でも生きていこうと思えるのです。