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随手抄(古典日本語ノート)

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記事一覧

随手抄10

○世中は つねにもがもな なぎさ漕(こぐ) あまのをぶねの 綱手かなしも
もが:願望の助詞。
も、な:詠嘆の助詞。
常にもがもな;万葉集にある言葉。
なぎさ:波打ち際。
あまのをぶね:漁師の小舟。
綱手:引き船の引き綱。
かなしも:身にしみて心が動かされる意。心底の痛切な感情を表す語。(一説:身にしみておもしろい。心が惹かれる。)

○綱手引く ちかのしほがま くりかえし かなしき世をぞ うらみは

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随手抄8

○淡路嶋 かよふ千鳥の なく声に 幾夜ね覚めぬ すまの関守
(源兼昌)
千鳥:たくさんの鳥。いろいろの鳥。ももどり。ももちどり。
「千鳥」は俳句の季語としては冬に入れられているが、日本のチドリ類の生態をみると、かならずしもあたってはいないので注意を要する。また、海岸にたくさんの鳥が集まっているようすから「千鳥」とよぶこともありうるが、この場合はチドリ類のみでなく、同様の環境でみられるシギ類をもさし

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随手抄7

○高砂の 尾上の桜 さきにけり とやまの霞 た々ずもあらなん
(前中納言匡房)
高砂:高い山。
尾上(をのへ):峰の上。
高砂の尾上:播磨の名所だが、山の総称になる。
さきにけり:咲いたことだ。に:完了。けり:詠嘆。
外山(とやま):端山(はやま)、里に近い山。
あらなん:あってほしい。らむ:あつらえ望む意をあらわす助動詞。

○山守は いはばいはなん 高砂のをのへの 桜折りて かざさむ
(AIに

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隨手抄(6)

○たつた河 もみぢば流る 神なびの みむろの山に 時雨ふるらし
立つた河:竜田川
もみぢば:紅葉の葉
神なび:かむなび。上代、神霊の鎮座すると信じられた山や森。
らし:らしい。に違いない。

○あらし吹 三室の山の もみぢば々 竜田の川の にしきなりけり

○神なびの みむろの山の いかならむ 時雨もて行く 秋の暮れかな

もて:によって、で。
ならむ:であろう。

○色はみな むなしき物を 立田

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随手抄5

○恨みわび ほさぬ袖だに ある物を 恋にくちなん 名こそおしけれ

恨みわび:恨む気力もなくなり。
わぶ:気力を失う。
ほさぬ袖:乾く暇もない袖
だに:でさえ。
ものを:なのに。
惜けれ:惜しきの已然形。こそと係結び。

○諸共に 哀と思へ 山桜 花より他に 知人もなし
大僧正行尊

諸共に:どちらも共に
哀と思へ:しみじみと懐かしい気持ち。

○春のよの 夢ばかりなる 手枕に かひなくた々む 名

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随手抄5

○滝の糸は 絶えて久しく なりぬれど 名こそながれて なをきこえけれ

滝:大覚寺にあった人工の滝。大覚寺は嵯峨天皇の離宮として造営され、後に真言宗の寺院となった。この歌が読まれたのは、離宮造営から約200年後のことである。現在は名古曽の滝跡として復元されている。
ぬれ:完了の助動詞「ぬ」の已然形。
ど:逆説の確定条件を表す接続助詞。
流れ:滝の縁語。

○あせにける 今だに懸り 滝つせの 早くぞ

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隨手抄4

○わすれじの 行末迄は かたければ けふをかぎりの 命ともがな
儀同三司母(高階成忠の娘貴子。道隆の室)

中関白かよひそめ侍りけるころ

中関白:藤原道隆。兼家の子で、道長の兄。正暦元年(990)、関白となる。

じ:…まい。(打消しの意志を表す。)
「忘る」は恋歌では「気にかけなくなる」「捨てる」といった意味で用いられる。
行末:ゆくすえ。これから先の成り行き。
かたし:難し。難しい。

かた

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隨手抄3

○明ぬれば くるるものとは しりながら なをうらめしき あさぼらけかな

ぬれ:完了の助動詞「ぬ」の已然形。
ば:既定条件を示す。
今宵又あはるる事とはしりながら也。
猶とは君にあはぬ時の朝ぼらけよりは猶あひてわかるる少しの間もはなれてゐんかと思へばかなしきなりと也。

○くるるものとは知りながらといへるも短き冬の日にしていよいよわりなく聞ゆべし

わりない:どうにもできなくて苦しい。

聞ゆ:き

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隨手抄2

●君がため おしからざりし 命さへ  ながくもがなと おもひぬる哉
(藤原義孝)

おし:をし。残念だ。心残りだ。
ざり:「ず」の連用形。
もがな:体言、形容詞や打消・断定の助動詞の連用形などに付く。〔願望〕…があったらなあ。…があればいいなあ。
ぬる:完了の助動詞「ぬ」の連体形。
哉:だなあ。
ぬる哉:過去の心なり。
ける哉:当意の心なり。ける:過去の助動詞「けり」の連体形。

●あひ見る事にか

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