『恋愛ワードを入力してください〜Search WWW』レビュー
タイトルと中身がかけ離れすぎている気がする、このドラマ。
脚本、セリフ、映像、音楽、衣装、セット、俳優陣、全ての質が高すぎてもうどうしていいか分からないほどの名作。
脚本家さんはこれが生涯最初で最後の1本だと覚悟して自分の人生の全てを最後まで粘り強く諦めないでぶっこんだのではないか、という印象を受けた。キム・ウンスクさんのアシスタント出身ということは、この作品が成功しなければ自分の未来は永久に開けない、この作品が千載一遇の、自分の人生を賭ける大チャンスだと腹の底から知っていただろう。
本当に、ひとつひとつ、一言一言のセリフが、全て160キロの直球、ストレートのパンチ、的の中心を射抜く矢という感じの、渾身の一撃ばかりだった。ビジネスのやり取りのシーンもそうだし、恋愛の場面でもそう。
というか、特に恋愛の場面でのセリフの、一言一言の破壊力の強さは、見ている側なのに、自分の肚の底にいちいちぶち込まれるかのような強さで、脚本家がどれだけセリフを練りに練ったか、鍛えに鍛え上げたか、削ぎ落として書き換えて推敲したかが伝わってくる気がした。
特にチャン・ギヨン演じるパク・モゴンのセリフは、徹頭徹尾、出だしからラストシーンの一言まで、全ての文字に一つも無駄がなく、この一言でなければいけない、それ以外ではダメだという珠玉の名言ぞろいだった。時に洗練され、時に腹黒く、時に子供のように素直に、さまざまな思いを繊細かつ大胆に表現されていて、彼の投げかける一言一言に、いちいち胸を打たれたり、考えさせられたり、感情を動かされたりした。
そしてこのドラマで大いに「ここが本当にすごかった!!」と私が言いたいのは、大人のかっこいい女性たちが大暴れする姿が、絵空事ぽくなく描かれていたことだった。そして、権力を揶揄するためにただ男女を逆転させたかのような安直なものではなく、それぞれの立場にある人たちがそれなりの説得力を持ってそこにいるのだと、誠実に描かれていたことだった。社長の人は社長らしく、会長の人は会長らしく、そうでない人も「なぜこの人がこの立場に」というのがないのが良かった。男性も女性も、いい人も悪い人も、そしてひとりの人の中の善人も悪人も大人も子供も、多面性のある人間というものがしっかり描かれているのが良かった。素直じゃないのが人間だから、素直じゃない思いがセリフとして現れているのに、商業としてのドラマだから、ちゃんと素直じゃない思いを素直にセリフとして書いているシーンも多くて、しかもそれを演じる俳優たちがすごく上手に表現してくれていて、そこにすごく癒された。日常ではなかなか人のひねくれた思いの裏にある素直な気持ちを聞けることなんてないから。
主役のペ・タミを演じたイム・スジョンさん、ストーリーの中では10歳差の恋愛を演じるのだけど実際は13歳差だったようで(完走してから確認した)、そんなことを全く感じさせない、素晴らしい演技だった。ビジネスパーソンとしての有能さ(決断力、行動力、巻き込み力、指導力などの全てにおいて抜きん出た能力を発揮する)が全く違和感なかったし、プライベートでのだらしなさや弱みの見せ方のギャップがすごくて、本当に、こんな大人の女性がいたらめちゃくちゃ素敵だなと素直に思えた。それにしても彼女のセリフの切れ味が本当にすごくて、脚本家すごすぎ、と何度思ったことか。
敵役?の位置付けかもしれないけど、ユニコン社の理事ソン・ガギョンを演じたチョン・ヘジンさん、いやー本当にすごかった。ドラマ前半でものすごいサディスティックな面を見せるシーンがあるんだけど、脚本もエグいと思ったけど彼女の演技がエグすぎてマジ最高だった。冷徹なビジネスパーソン、権力に怯える嫁、幼馴染に見せる少女のような笑顔、などなどなどなど(これ以上書くとネタバレになるからここまでにしておくけど)、彼女も本当に多彩な表情で楽しませてくれて素晴らしかった。
それから、登場シーンから強烈な存在感を放つスカーレット役のイ・ダヒさん。自分が求められている立ち位置をしっかり演じ切ってくれて素晴らしかった。彼女はアクションシーンが人一倍多かったのだけど、どれも体のキレが凄すぎて圧倒された。180cm近くある彼女の大立ち回りは必見である。そしてそんな彼女が子供みたいに大泣きするシーンでは、ああ、これ、彼女の周りにいる人たちはみんな、彼女にこういう姿をさらけ出させたかったんだな、と思った。もう、可愛すぎて死ぬかと思ったし、彼女のこういう顔見たかったと思った。他の人たちの衣装もみんな本当に素晴らしかったけど、スカーレットは別格にすごかった。衣装さんも、さぞかし着せ甲斐があっただろう。
ペ・タミやスカーレットの上司役のブライアンを演じたクォン・ヘヒョさん、悪役を演じることも多いけど、ここではビックリするくらい理想の上司を演じていて(しかも嫌味がなくて)、美味しい役どころだったと思う。ドラマの中では、たまにはこういうファンタジーも必要だ。私たちは実際の日常を生きていて、そしてドラマを楽しむ時間は非日常なのだから。彼の存在に私はめちゃくちゃ癒された。同じように感じる女性は多いと思う。
『還魂』などで主演を演じているイ・ジェウクが、売れない俳優を演じているのだけど、今知った、彼30歳の役だったのか!!!少年みたいな顔で出てたから実年齢(当時20歳くらい)と近い役かと思ってた。うーむ、そこはほんとに、30歳くらいの年齢の俳優さんを使って欲しかったかなと今思った。でも劇中劇のセリフ合わせ(意味伝わるかな、ドラマの中に出てくるドラマの台本を読み合わせる、という意味です)という難しいシーンを違和感なく演じていたりして、演技力という面ではさすがだったと思う。んー、でも、あれ30歳の役だったか・・・うん、まあ、俳優さんって実際会ってみると年齢不詳な人多いからね(と自分を納得させようと試みてる)。売れてなかった人が急に売れちゃってとまどってるとか、天然で性格いいとかは、すごく上手に演じていたような感じがする。説得力あった。うん。
それから特筆しておきたい。セットがどれも全部素晴らしかった。オフィス、各個人の家、花吹雪から紅葉まで、どれも本当に素晴らしかった。家の方は、それぞれの人の個性がとてもよく表されていたと思うし(モゴンの自宅兼オフィスなんかは特に)。そうそう、自由な社風のオフィスという設定のセットが本当に本当に素晴らしくて、こういうところで私も働いてみたいな・・・としみじみ思った。天井が高かったり、吹き抜けがあったり、不思議なアーチ型のガラスのドアがあったりして、圧迫感が全くなくて、小道具もいちいちおしゃれで。コーヒーのいい香りのする風が社内に吹き渡っているような気がした。
音楽も素晴らしかった。変に盛り上げるBGMがなくて、むしろ俳優さんたちは音が極限まで削ぎ落とされた中で演じる『無音』の演技力が試される場面が多くて、うわあ、となった。セリフの間合いやテンポがツメツメじゃなくて、自然な間合い、息遣いが大切にされていたと思う。OSTもいい曲ばかりだし、劇中のBGMがね、組曲みたいに素晴らしいんですよ。うわ、このメインテーマここでこういうアレンジでぶつけてくる!?とか、あーここでこういう音に繋げたかったからこの編曲だったんだ、とか。わざとらしくて押し付けがましいテレビ的な盛り上げ方やBGMが嫌いな私にとって、音楽も楽しめる稀有なドラマだった。
カメラワークも、いやーこれどうやったんだろうみたいな、かなり映像技術が試されるような高い技術をふんだんに取り入れていたと思うんだけどどうかしら。カメラさんすごいなー!!って何度も思ったし、季節の移り変わるシーンも、『ノッティングヒルの恋人』を初めてみた時を思い出すような、編集による場面転換の妙を存分に楽しませていただいた。
最後に・・・
ストーリーが本当にすごいです。伏線の回収っぷりが、鳥肌もんです。原題は『検索ワードを入力してください Search WWW』。このタイトルの本当の意味が、最終回でわかります。ぜひ最後まで見てください。絶対に損はさせませんから。「うっわ・・・」って言いたくなりますから。
はー、このドラマのレビューがこんなに長いのは、ついさっき全部見終わったからです。レビューを早く書きたくて書きたくてたまらなかった。満足です。書けたのも満足だし、見たのも満足。はー、見て良かった。めちゃくちゃ面白かった!!!!!みんなも見て!!!!!