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凛として、生きていた


海は
空よりも重く
陸よりは、少し軽く。
私の海、も
空を見上げては、鳥を想い
陸を眺めては、人を想っています。


あの人の言葉は
あなたの言葉だって
宙を彷徨うことはなく
私の中を
ゆらり、ゆらりと
時間をかけて
沈んでいき
いずれ海底へ着くのでしょう
どんな言葉も
無限の暗がりに
やがては見えなくなり。
そう。
石が降ろうが
船が沈もうが
魚は自由に泳ぎ回り
私はここにいる。
それでいいのです。
私は
本当に
それでいいのです。


私の海は
私が死んだ後も
溢れ出すことなく
埋められることもなく
この場に在り続け
誰の目にも留まらないところで
尚も言葉を集め続けるのでしょう
涙の言葉も
怒りの言葉も
嫉みの言葉も
様々な考察も
私の海は
投げ入れられた言葉を
ひとつひとつ
静かに聴き入り
どれもが
ゆらり、ゆらりと
沈んでいきます


お母さん。
赤子として生まれ落ちた日から
人知れず膨れていったひとつの海は
今、こんなにも育ちました。
それは鳥ほど旅をせず
人ほど立派なものではなかったかもしれない。
だけど
たしかに私はここで想っていた。
私は
人も
世界も
好きでした



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