秋の初めの歌


秋の空気を吸う度に
夏の暑さにやられていた
胸から上の細胞が
一斉に活気を取り戻し
やんややんやと各々が
記憶を掘り起こし始めた

思い出にしては鮮やかで
刹那にしては懐かしい
きっと
記憶にはない
故郷の匂い

遠い昔、リスだった頃
ウロの天井に心臓があって
イチョウの木の暖かさよ
遠くの声は柔らかく
腕もなく包まれていた

蝉の声を読み聞かされて巣立った子どもの木枯らしに
さわさわさわと揺られながら
のんびりと、冬の身支度
どんぐりを、集めている

広場を囲む
まるい星
さんかくの月
たかい森
あかるい空
秋の風は寂しくて
どこまでも
どこまでも
包み込んでくれる

コオロギと共に歌いましょう
気が晴れるまで踊りましょう
近くのウロで眠りましょう
今夜の私はリスなのだから



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?