#6 お金がないから、留学します
みなさんは海外留学に対してどんなイメージがあるでしょうか?時代と共に多少移り変わってきているようにも思いますが、次のような感覚は時代に関わらずあるように思います。
ここでは最後の「お金がかかる」に注目します。例えば、英国ケンブリッジ大学で PhD in Computer Science コース(日本の博士課程に相当)に留学すると、2023年秋の入学で、日本人学生の場合は授業料だけで年間 35,673ポンドとなり、これは原稿を書いている日の為替レートで約650万円になります。実際にはそれに生活費や医療保険が加わり、日本に帰省もしたいとなると、年間約1,000万円、3年間で約3,000万円という額が必要になります。米国トップ校も大差なく、郊外なら家が買えてしまう金額です。カナダやオーストラリアでは多少安くなりますが、それでも年間数百万円単位でかかることに違いはありません。
一方、日本で大学院修士を修了後、博士号の取得を目指すとなると、学費として国立大学で年間約50万円、私立大学で約100万円(理系の場合)が必要となり、仕事をせず学業に専念するとなると生活費が月20万円(年間240万円)として、年間の費用は国立でざっくり300万円、私立で350万円になります。博士課程はこれが最低3年間ですから、国立・私立とも1,000万円前後の金額が必要になります。英米に比べれば安いものの、誰もが準備できる金額ではありません。
では私が留学するドイツはどうでしょうか。ドイツでは大学院修士課程までと博士課程では仕組みが大きく違っており、博士課程大学院生は「学生」ではなく大学の「研究員」としての雇用になります。「学生」ではないので「学費」がそもそも存在せず、雇用されるので給料が支払われます。品がないので金額は書きませんが、目安としては日本で大学院修士課程を修了して新卒で就職する場合の 1.5〜2倍程度の金額です。ドイツに3〜4年間留学して、年に一度日本に帰省しても、持ち出し金はほぼゼロで済むのです。
僕の場合は、むしろ悲しくなってしまうのですが、48歳で会社を退職した時点の収入よりも、大学研究員としての収入の方が高くなります。「就職するより好待遇だから研究の道に進む」という価値観で優秀な学生を世界中から集めるのです。上に書いた英国の場合も、「学費+生活費」は返済不要の奨学金でまかなえることがほとんどです。そのお金がどこから出ているかについては、回を改めて書きたいと思います。
日本には、日本学術振興会という組織があり、博士号取得を目指す優秀な学生には月額20万円が返済不要で給付される「特別研究員」制度があります。しかし採用率は約2割で、私も出願しましたが不採用でした。採用されても、アルバイトは原則不可、学費を支払う必要があることから、生活はやはり厳しくなります。AI と人間の協働、エネルギー問題、さらなる感染症対策と、高レベルの研究が必要な分野が多くある時代に、「博士レベルの研究をするなら、生活が厳しくなるのはがまん」という日本の価値観を放置していいものか、多いに疑問を感じます。
とよく聞かれます。答えはとても簡単です。
今日もお読みくださって、ありがとうございました☕️
(2023年7月5日)