「豊かさ」の果て 〜「豊かさ」シリーズ③〜
前回まで、その4条件が整うまでの歴史を見てきました。
今回はその果てにあったものをご紹介します。
『豊かさの誕生』(再掲)
1 私有財産権
自身の身体はもちろん、具体的・知的含め、市民の自由として
2 科学的合理主義
世界を精査・解釈する体系的な手順として
3 資本主義
新製品の開発や製造に、幅広く誰でも投資できる市場として
4 輸送の技術
情報のための通信手段と、人や物を運ぶ輸送手段として
【イギリス】「豊かさ」までに流れた血
18世紀以前の王朝は常にお金に困っており、戦費の調達のための無残な資金調達(強奪)により、チャールズ1世は斬首される。
内戦に勝利したクロムウェルも財政安定はできず、ステュアート朝が復権。
この頃、オランダからオラニエ公ウィレムを、議会が招聘する。
彼に安定した財源を与え、フランスとの戦費に悩まなくて良いことを条件に、王は議会へ立法権の優越を与える。
こうした「王が要求し、下院が与え、上院が賛同する」新しい政治体制が生まれました。
この時のフランス:なぜ出遅れたか?
宗教的不寛容がもたらした、と言われています。
カトリックが大きな権力を握り、迫害を恐れたプロテスタントの科学者・職人は、身の危険を感じ国外へ逃亡しました。これは知的財産の喪失を意味しました。
またフランスでは科学者はもてはやされていて、一般の人・職人との交わりはなく、対するイギリスではそうではなかった。
エンジニア ・ サイエンティスト
この両世界にまたがる橋の大きさが発展の肝だったようです。
富と経済システム・政治システム・社会システムの関連
民主主義の発展に影響がありそうな全てを列挙したところ、その成立には、
・豊かさ
・教育
が最も大切な要件とわかりました。
①一般に知られるマズローの定理から、
・民主主義
・自己表現の欲求
に強い相互関係があり(当然といえば当然)、その時間的を調べたところ、
自己表現の欲求→民主主義を強めることもわかりました。
様々な権利を所有するようになり、自分で自分の振る舞いを律する人が、民主主義を強化します。
②さらに研究をすすめると、
「豊かさ」が「自己表現の欲求」をもたらし、それが「民主主義」を強めることもわかりました。
③加えて投資と成長の関連も、もちろん正の関係がありますが、
投資が成長をもたらす、というよりも、
成長が投資をもたらし、さらなる成長をもたらすことがわかりました。
④最後に、民主主義「度合い」と経済成長について。
このグラフはが逆U野地になっていて、民主主義が浸透すればするほど、経済への負の効果も見込めることがわかりました。
理由は、政治的成熟した国は(例に日本が挙げられていました)衰退産業に補助金を与え、維持しようとするから、です。
また、社会的に有益でも、経済的に非生産的な、活動の場を国民に与えることもあります。
まさに!その通りです。痛みを伴うので、産業構造かいくが中途半端に頓挫した日本は、衰退産業を維持し失業率を抑える代わりに、刻印一人当たりの生産性は、もはや先進国で27位と下に位置します。
豊かさは増えても幸せになれない・・
1970年〜2000年に、ヨーロッパの国民一人当たりのGDPは60%増えましたが、なんと幸福率は横ばいでした。
日本は5倍の成長でしたが、同じく横ばいでした。
さらに興味深いことに、イタリアでは10%の人が幸福にかかわらず、デンマークは60%が幸福であるという国による違いです。
一人あたりのGDPと、幸福度を、国別に見ても面白い。(1998年)
最も高いアメリカ(30000ドル)は、その半分のニュージーランドと、幸福度の点では同列。
フランス・オーストリア・日本は(当時)全く同じ、生産度と幸福度でしたが、その1/4のコロンビアと、幸福度では負けています。
※ちなみに一番幸福度の高い国々はスカンジナビア地域(ノルウェー・スェーデンなど)
総じてどの国でも貧困層と富裕層の幸福度は、20%程度の差異しかなく、
また(よく知られていることですが)所得が2000万を超えると、その幸福度は一切上がりません。
富の不平等・相対的貧困・隣人効果と言われる物の作用もみられます。
結論は、①豊かさは幸福の唯一物ではないが、重要なもの。
②国間の比較で、豊かさと幸福度はそこまでつながりをもたない。
③なぜなら豊かさは、他者との比較で与えられるため(隣人効果)。
しかし豊かになっていって、その国が不幸になる傾向はない。
この相対的貧困は、世界が苦戦している。この1世紀で格段に上昇している。まさにピケティさんが言った、この図式が証明する通りです。
r(return to capital:資本収益率)>g(growth rate of outcome:経済成長率)
ここで再度、人類に問われる、「成長か平等か」?
数回にわたり見てきたように、「私有財産」以外はあり得ません。
その前提で見ていきますが、
あまりに国内の格差が広がると、それは埋められないものとなり、時に階級をうみ、平均的な市民の幸福感は薄れ、社会の一員であるという気持ちをなくしていきます。
社会学で「社会継続規範」といいますが、「こんな社会存続しないくて良い」とその規範が薄くなっていく。
そうすると、財産を守るためのコストが爆発し、それが経済へも悪影響を与えることがわかっています。
「納税者上位1%の、全国民の所得に占める割合」。
これが物凄い面白い表で、これも前出のピケティさんですが、
この表を見て、格差が1920年(25%)から徐々に下がり、1980年から復活して今(18%へ!)も伸びていることがわかります。
では幸福なスカンジナビア地域ではどのような施策がなされているか?
ご存知の通り、税です。
これらの国は、1920年〜2000年の間で、11%〜51%(!)の税負担を切り上げました。
※ちなみにピケティさんは80%!吸い上げる必要があると言っています。
インフレと失業のトレードオフ
どちらがみじめか、というと、失業から受けるダメージの方が数倍と出ています。よって金融政策を緩め、失業をなくす代わりに、インフレを容認できる社会設計が望まれるといえます。
ただ福祉国家の副作用である、高い失業率には注目すべきでしょう。
※ちなみにビックマック指数という世界のその価格の比較で、その国のインフレ度を図っている表もあります。
勝者の呪い
「ペルシャに兵を送れば、あなたは大きな帝国を失うでしょう」
その神託に勇気をもったリディアはペルシャを征服するが、ホロビア大帝国はレディアであった。
歴史的に、軍事費の膨張はその国を破滅に追いやります。
アメリカは近年圧倒的な経済成長を背景に、
そのGDPの3.5%で世界中に駐屯兵をおき、世界を制覇してきました。
この意味で「歴史は終わり」ました。
(フランシス・フクヤマさん『歴史の終わり』)
自由主義的民主守護による、成長と、軍備への投資と、さらにその暴走(GDPの10%)に留める政治的成熟社会。
これに対抗できる他のセオリーを持った競争相手は、今後存在しない。
社会主義も共産主義も、だれも相手にしない。
これがフクヤマさんの趣旨でもありました。
成長は終わった?
2003年の連邦政府の予算は、その60%が、以下に割り当てられました
・社会保障
・高齢者向け医療(メディケア)
・低所得者向け医療
・一般扶助(低所得者会の支援)
残りの40%のうち、
18%が国王、68%は国債の利払い、ようやく14%でその他全て「治安自治・教育・インフラなど」にあてられました。
ただ、人口動態的に(アメリカは)実質的な扶養率は、0.76で落ち着き、経済成長は0.6%低下した上代が続く。
黄金時代ではないけれど、不幸ではないと言えます。
では経済成長の本当の脅威は何か?
「豊かさが国民にもたらす、苦痛・危機の許容限度の低下」かもしれません。豊かになるにつれ、行政求めるサービスが多くなっていくのが世の摂理です。
その先へ・・・
技術革新への補助と、その担い手に武器を渡すことが必要と説いています。
確かにその通りです。
さらに同時に、社会的寛容・宗教的寛容も求められます。
遺伝子も、生物倫理も、情報倫理も、今後経済成長を支える技術には、
それを支える政府・国民の意識が不可欠という結論で終えています。
長い道のりでした。何が豊かさで、何によってもたらされて、現在何が明るみに出て、今後何をめざしていくか、大変示唆に富むテキストでした。
最後までお付き合い頂きありがとうございました。
佐々木真吾
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