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書評 『戦後政治の崩壊』

『戦後政治の崩壊 デモクラシーはどこへゆくか』を読みます。
現在の政治までつながる動きを、小泉純一郎政権を例に噛み砕いて説明してくれる、政治系の本の傑作の一つと思います。

日本の政官関係

ーイギリス 【議院内閣制】
・内閣は、与党の最強メンバーから構成される
・与党の1/3が役職を与えられ、与党≒内閣と言える
・官僚は、その内閣の指示に従う(servant)
・内閣以外の与党はもちろん、野党も官僚とは接触はしない

ー日本 【官僚内閣制】
・党内部での政策意図のコンセンサスがとれていない。政治家はそれぞれの地場の応援会との関係重視をする。(再選のため)
・与党のメンバーは、政策調査会・幹事長・内閣と分散され、必ずしも最強メンバーで構成されていない
・入閣の条件は再選回数・年齢で、数年経つと交代される(高回転)
・政治家と官僚が基本的に関係をもち、政治家は彼もとに集まった声(一般市民?あるいは地元の応援してくれる層の声)で官僚へ圧力をかけ、官僚は「ご説明」の体を取り根回し・調整していく。
具体的には、自民党政治家の専門化=「族議員」と、中堅官僚が、政策調査会にて非公式に議論され、事務次官に了承を得た政策が閣僚のもとへいく。
・行政/官僚は基本縦割り構造。その省庁の利益となるか、と自分は出世レースに勝てるか、が行動規範。
・政治家は官僚を予算分布で威し、官僚は政治家をスキャンダルで干す。
・メディアへのメッセージも官僚の作文したもの。
・もちろん官僚が作る政策は、官僚にとって不利益にならないようになる。

ー官僚の限界
・省庁縦割りの弊害
・官僚の「無謬性」と、それによる傷の悪化
・財務投融資での失敗

政党政治は喜劇か?

先に挙げたように、バラバラの個の集まりである政党も、
小選挙区制の導入=1選挙区1人の公認で、党のイメージの良し悪しが選挙結果に直結し、利害関係(族議員同士)に勤しむような党や、支持率の低い内閣では、そもそもの与党としての基盤が失われてしまう恐れから、
あまりみにくい振る舞いができなくなったようです。

党のイメージを下げる党員は公認から外され、それは後ろ盾のない候補者から死を意味します。

※筆者注:国民がメディアや、実際の政策活動・実績を監視せずに投票する(もしくは投票すらしない)以上、どんなダメな党でも党員でないと国民から見向きもされない。
逆に言えば、しっかりと監視と評価を私たちができれば、優れた政治家は党に従属せず、所属しても党の言いなりにはならないはずです。

もう1点。民主党が政権をとって、失ったことの反省。
1 政局の混乱による政権奪取でなく、王道の総選挙による奪還を目指すべし
批判による打倒は、自分に跳ね返ってくる。
2 野党の役目は、成立しそうな法案の問題点を指摘し、明確な反対意思を主張し続けることにある。

変質した憲法政治

日米安全保障条約の変容
第一段階 自衛隊の活動拡大:
     平和維持活動のため、東ティモールへ物資の提供など
第二段階 アメリカの軍事戦略へ日本を関わらせるためだけの安保改正
     新ガイドライン法・周辺事態法など
第三段階 小泉・ブッシュ政権
     イラク特措法 「アメリカを全面的に応援」
     ※イラクに派遣された自衛隊員の気持ちを察すると痛みが伴う

リスクを負うのは誰?政策を決めるのは誰?

マトリックスを描きます。
リスクの社会化 ⇆ リスクの個人化 :福祉コストは誰が払う?
普遍的政策   ⇆  裁量的政策   :政策の決め手は客観性?
※戦後日本は、リスクの社会化・裁量的政策へ

平等とは日本で国土全体の平等な発展の事。これもある程度は大切だった。
西ヨーロッパでは、階級・生まれによる格差の是正の事。

社会保障給付費において、先進国でダントツの最下位。
還元率(払った分と支払われた分の比率)は42%。スウェーデンは70%。

地方へは独自財源を与えない事で、自治を辞めさせた。
従っていれば、給付金は得られる安楽な中央集権体制だった。

忘れられたのは首都圏の労働者。多くの費用が地方へばら撒かれる(一程度までの道路や街づくりへの投資は意味をなしたが、それ以降は採算の合わない投資が続けられている)一方、都心で働く労働者は、重い住宅ローンと通勤地獄の犠牲になった。
強いて言えば、会社による福利厚生・長期安定雇用で、労働者は救われていた。今はそれも見通しは暗いだろう。

グローバリズムは当初、恩恵だけもたらすものでした。
というのも小選挙区制の導入で、これまでより厳しい選挙戦になった政治家は、今まで以上に後援会たる地方への還元を余儀なくされていたので、関係強化=お金ばらまきたかった。
そこで保護が必要な方にお金をばらまきました。もちろんグローバル化を生き抜く投資としてでなく、当座を凌ぐだけのお金です。

もちろん、こんな資金繰りが続くはずがなく、【リスクの社会化・裁量的政策(上記)】も変更を余儀なくされます。

リスクの社会化の限界
もちろん財源の問題です。バブル崩壊・高齢化・景気回復のための(当座しのぎの)財政出動で、先進国でも悪い状況です。
また、その原資は、税だけではありません。十分な競争が行われず、一部の財で【高コスト化】が広まりました。もちろん負担するのは国民です。

裁量的政策の限界
官僚の意向で政策が決まるとしたら、そこにおもねる不正が起きることも必然です。
しかも、その恩恵を受けていたはずの地域・後援会も、ちっとも効果のない施策に不満が溜まってまいりました。
(※筆者注:もちろん元々地方政治をさせない仕組み(独自財源の確保をさせない)にした以上やむを得ないですが、【お任せして・不満をあげる】態度ではどうにもいかなくなったことは歴史の事実と言えるでしょう。今後地域はどう振る舞うべきか、そのヒントは今後探っていきたいと思います。)

ここで誕生したのが小泉政権です。「自民党を解体する」「構造改革」と端を切り、指示を集めました。
以下で、その経過で【リスクの個人化・裁量的政策の否定(だけど実際は?)】についてみていきます。

羊頭狗肉な、小泉政権
◆リスクの個人化 「成功した人へ拍手を送る社会」(竹中平蔵)
平等さが担保されない状態で、成功した人へ拍手は難しく、
その平等をどう実現するかは、この政権からすっぽり抜けていました。
逆に、金融の自己責任による経営健全化による貸し渋り、医療費自己負担分の引き上げなどがおこなわれました。

◆外向き 「自民党をぶっ壊す」
具体的には、「道路公団民営化」「郵政民営化」があるだけでした。
(※筆者注:この民営化、「アメリカの、アメリカによる、アメリカのための民営化」であることは、衆目の知るところとなりました。郵政の金融資産(およそ300兆円)をめぐる攻防だったわけです。このキャンペーンへ、アメリカ(保険業界を主に)日本政府へ5000億のお金が、そしてこのCMのため日本政府から電通へ同様の資金が払われていることがわかっています。)

その後、郵政はどうよくなったでしょうか?
優生は現在ブラック企業になっているという評価もあります。
民営化されて個人のノルマが大きくなったからです。
実際にこれまで、国営でも独立採算制であったから、職員への手当は税金からではなかった。
本国アメリカでは郵政は民営化できていない。
そして現在、日本の郵政は巨額の借金で経営破綻目前とのこと。
※もちろん、小泉さんも竹中さんも責任はとりません。

ところで、政策にある程度の線引きをした点で、小泉さんは評価されますが、実際の改革は道半ばだったと言われております。

◆内側の実情
・道路公団民営化の頓挫
・地方への財源移譲も大都市に有利に村など財源確保が難しい地域には不利な施策
・金融機関の不良債権処理もりそなは助け、足利は助けない裁量的政策
・義務教育への補助金の削除

このような二枚舌で、政権を維持したのが小泉政権でした。

政治主導のための変革

□課題1
予算の割り振り 1992年から延べ150兆円以上使われてきた
・使い切らなくてはいけない予算 & あとから見つけてくる事業
・霞ヶ関の先住民に優先される予算 = その官庁にとっての利益追求
□課題2
自民党の政策立案能力の欠如:下野した時に明るみに出た

政策には3段階ある

概念 政治家が担当
基本 官僚が担当:ここが官僚支配と言われる所以
実施 政治家が担当

※景気が悪くなって以降、国民に負担をかける時、官僚の政治家への根回し・交渉・利害の調整が始まりました。

先に挙げた政策立案能力と、自社クラブを通じたメディア戦略、ポストを用意したお抱え学者など、官僚の優位はまだ覆せていなかったようです。
縦割りの省の優先でなく、大枠で考える政治主導が必要という抗議に、官僚はもちろん反対し、(おいしい関係を持つ)与党までもが反対する始末。
こんな背景から、以下のような制度改革が進められました。

1990年代 制度改革 
1 内閣機能の強化 内閣官房にスタッフを配置
2 閣議における総理大臣の発議権を内閣法に明記
3 各大臣を補佐する政治家が、副大臣・政務官など5名程度あてがわれる

イギリスの模倣と言えるこちら。機能したのでしょうか?

今だに、政策形成プロセスが与党の政調会部会で、中堅の官僚と政治家がボトムアップ的に政策を決めることに変わりはありません。
このように、官僚の分業システムと対応し政策立案が進むため、政策が分散化していことにも変わりはありません。

取り急ぎ以上が本書のまとめとなります。
最後までご覧いただきありがとうございました!
佐々木真吾



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