「ユア・フォルマ」の3つの魅力
昨日は「ユア・フォルマ」の話をしていたが、もうなにか、あの、よめ…ということしか伝わっていなかったので落ち着いて魅力を伝えさせてほしい。
完全に人の心を失っていた(ときめきで)
はじめに
本作の魅力は3つある。
ひとつ、SF×推理というジャンルそのもの。
ふたつ、圧倒的な読みやすさ。
みっつ、好感の持てる筆者さん。
以上である。3つ目はお前の主観では?いやいや、大事なことだから全部聞いていってほしい。
SF×推理は難しい
SFも推理も、魅力的だがコストが高いジャンルである。それは書く側以上に、読む側にとってコストが高い。
SFは未来の世界を描く都合上、読者が描写された未来の世界を理解する必要があるし、SFは手がかりを拾い集めながら犯人が誰で、何故事件がおこったのか、真実を考えていく必要がある。
この時点で読者の脳みそは世界を理解する、真実を追求するの2つの仕事を強いられる。ユア・フォルマはデビュー作だから、これに登場人物たちがどんな人間なのかを理解する、という3つ目の仕事も加わる。頭が疲れて読むのがあきてしまった!と手放されてしまいやすいジャンルが×2。いくら面白くても、このジャンルを描くのは相当な作戦を立てなければ、作品として完成しても、「読んでもらえる」作品にはなりえない。
では、ユア・フォルマはどうやって読んでもらえる作品にたどり着いたのか。それは単純明快だ。
圧倒的なよみやすさ
そう、よみやすさである。
文章として読みやすいのはもちろんのことだが、作品のいたる所に読みやすい仕掛けが施されている。全部あげていくときりがないので、主人公のエチカを例に述べることにする。
主役であるエチカのキャラクター造形がすごい。
彼女は過去の事情と当人の性格、19歳という年齢の若さが相まって、他者に深入りせず、他者への理解に乏しい。それはエチカという人間が抱える歪みやバックボーンを表現しつつ、周囲の登場人物の人物像を単純なものにするのに一役買っている。あくまでエチカ視点で物語が進むが故に、謎解きに関してはともかく、周囲の人物の人間性に関して、彼女は彼女が見ているとおりにしか理解できない。
彼女が理解する人物像は極めてシンプルで、他者へ積極的に関わろうとしないが故に、その人物描写は省略される。
ユア・フォルマ、という世界を体現する上で適切な要素が配置され、部隊を回す上で適切に機能する「エチカ」という主人公の設定がもし人懐っこかったり、他者に深く関わる人間なら、この小説が人物に書ける描写コストはもっと高かっただろうし、お話の要素として人物が突出しすぎ、世界観の理解が遅れただろうと思う。
それを思うに、エチカという人物像は魅力的であると同時に、本当にシナリオを回す上でよく考えられた機能を備えたキャラクターだとおもう。
筆者さんの人間性
最後に僕が押すのは、筆者さんの人間性である。あとがきで手短に話を止め、引用文献をサラリと添えているスマートさ。普通にかっこいい。
お話の余韻を壊さぬように短く話を止め、この世界をどうやって作ったのだろうと気にするヒトへの答えと、作品を作る上で参考にした相手への敬意を同時に表していくこの丁寧さがとても好きだと思う。
以上3点、かけあしながらユア・フォルマの魅力を改めてお伝えさせていただいた。
そして叶うことなら、貴方がこの魅惑的な作品を手にしてくださることを祈り、筆を置くことにする。またねーー!