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掌編小説033(お題:きつねの婿入り)
「おつかれ」
「おー」
「てかさ、雨降ってね?」
「は?」
「晴れてんのに降ってる。ウケる」
「おー、狐の嫁入り」
「やば、さすが文学部。詩的!」
「経済学部だけどな」
「え?」
「経済学部だけどな、俺」
「毎日バカみたいに本読んでんのに?」
「うん」
「……まぁそれは置いておいて」
「今のモーションは投げとばしてた」
「これさ、なんで〈狐の嫁入り〉っていうの?」
「諸説あるらしいけど、まぁ、狐が嫁入り行列を人目につかせないようにするために雨を降らせてるとかなんとか」
「家族婚ってこと?」
「え?」
「シャイなんだな、狐」
「ああ、まぁ、そうなんじゃん?」
「狐だけに家族コンってか!」
「さっさとメシ買ってきたら?」
「そうする」
***
「きつねうどんってなんで狐なの?」
「きつねうどんにしたのか」
「めでたい日だし」
「めでたい日に狐を食ってやるなよ」
「で、どうなの、きつねうどんの由来」
「油揚げが狐の好物だから」
「マジ?」
「もともとはネズミの油揚げだったらしいけど、肉食や殺生を禁ずる仏教の教えが広まるとともに大豆由来の油揚げに変わって今に至る」
「ネズミかぁ……」
「ちなみに狐はネコ目イヌ科」
「めちゃくちゃじゃねーか」
「油揚げ食わないの?」
「おまえのせいで完全に食う気なくしたわ」
「訊いたのおまえだろ」
***
「雨やんだな」
「おっ、ほんとだ」
「今日サークル顔出す?」
「行く行く。おまえは?」
「行く」
「じゃさ、終わったらそのままメシ食い行かね?」
「いいよ」
「先輩たちおつかれさまです」
「おー! 今からメシ?」
「そうです」
「じゃあこの油揚げあげる」
「え?」
「おつかれ!」
「え? あ、なんかよくわかんないスけどありがとうございます!」
***
「狐の婿入り、完了!」
「嫁入りな」
「あいつ苗字『姫川』だし婿ってことでよくね?」
「嫁行ったり婿行ったりいそがしいな」
「六月だしな」
「ジューンブライド?」
「それ」
「じゃあ、またあとで」
「またなー」