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掌編小説002(お題:南風と青年)

「南瓜に注意!」

何気なくテレビをザッピングしていたら、そんな字幕があらわれてぎょっとした。

世界のおもしろ仰天ニュースとかそんな類だろうか。南瓜が人間に猛威をふるう、そんなおかしな状況を想像しながらチャンネルを遡ると、しかし、真相はつまらないものだった。

「週末は南風に注意!」

たどりついたチャンネルでは天気予報がはじまったばかりだった。南風。「風」と「瓜」を見間違えたらしかった。時刻は午後6時34分。そろそろ夕食時だ、腹でも空いたのだろう。南風と聞いて、なんだか途端に暑くなってきた気がする。そうめんでも茹でるか。立ちあがったそのときテーブルに置いたままのスマートフォンがブルブルと震えた。

「かげんきにしちなてますか?」

チャットアプリを開くと、暗号……ではなく母からメッセージが送られてきている。「元気にしていますか?」と、おそらく、打ちたかったのだろう。しょっちゅうこんな調子で送られてきてはもはや解読もお手のものだ。母のメッセージはその後も立てつづけに送られてきた。

「畑のかぼちゆゃが収穫の磁気を迎あえたので、そちらにもおきららます」

「まだ甘く内ので少し置いとから食べてくださいね」

「カノジョがいるならカノジョに料理してもらってくださたあ」

自分なら絶対にしないタップミスに苦笑しながら、数日後に届くであろう南瓜のことを考える。南瓜は収穫のピークと旬が異なり、収穫から1〜3ヶ月は冷暗保存し甘みが増した頃に食べるのがよいとされている。収穫したものをそのまますぐに送りたくなってしまうのはせっかちな母なりの親心なのかもしれない。南瓜は甘くて苦手だと再三言っているのに送りつけてくるところも。

手早くつくったそうめんをすすりながら、母に返信を送った。まずは礼と、それから、カノジョの心配は余計なお世話だということ、そして来年こそは息子は南瓜が苦手だったと思いだしてくれということ。

今年もまた、箱一杯の南瓜を大学の友人になんとかして押しつけたりレシピサイトを見ながら消化する秋がやってくる。「南瓜に注意!」先ほどのつまらない勘違いを思いだした。

勘違いじゃなかったな。

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