ヒ素
国立科学博物館では毒展なるものをやっているようですし、毒のようなビビットな見た目のものや危なげのものには何か人間を惹きつけるものがありますよねきっと。怖いから理解したいのか、怖いもの見たさなのか、何かそういう危なげなものに魅力を感じてしまう本能なのか。
ヒ素といえば2010年にヒ素をDNAに使う微生物が見つかった、という論文が
発表されました。え、リンじゃなくていいの?というか毒じゃないの?っていうセンセーショナルな論文でした。
←これはこの後の追試によって、ただ「ヒ素耐性」を持った微生物だったことが明らかになったようですが、それでも面白いです。
リンは言わずもがな生物にとっては必須元素で、エネルギー通貨のATPや遺伝物質のDNA(リン酸ー糖ー塩基)などに使われています。ヒ素はリンの同族元素(周期表の縦列の関係)ですので、性質が似ているはずで、Pが欠乏する環境でヒ素(ヒ酸)を使う生物がいてもいいよねって発想だと思います。実際にリンと性質が似ているために環境中で似たような挙動をするため、リンに富む湖などでヒ素も同様に富んでいるところがあるようです。
ただし結局リン酸は生物にとって重要で、ヒ素はDNAにはなり得ないし、やっぱり毒だよね、というのが明らかになりました。ではこの違いはなんなのでしょうか。なんでリンは良くてヒ素は毒で、体はそれをどう見分けているんでしょうか。
ヒ素が毒たりうる理由
① 一つは原子同士の結合性の違いによります。リンとヒ素はサイズが近いものの、ヒ素の方が少しだけ大きい。そしてAs-O結合はP-O結合よりも長苦なるので、隙間にH2Oが入り込んでしまうために、As-O結合はすぐ切れてしまうのです。それでDNAのような大事な分子の結合を十分に保持できないのです。
② ヒ素は言おうと非常に仲が良いことです。例えばアルセノパイライト(硫ヒ鉄鉱:硫黄とヒ素と鉄の鉱物)と呼ばれる鉱石はよく鉱山試料などから産出します。そんなヒ素が体内に入るとタンパク質中の硫黄と結合することで変質させてしまいます。タンパク質はホルモンや酵素を含む体内の化学工場の主要成分ですので、これに異常をきたします。よって神経伝達機能やホルモンや酵素の働きが阻害され、内臓機能不全や痙攣などの症状を与えるわけです。
③ リン酸よりも少しだけ大きいヒ素は余分に電子を運んでしまうため、細胞内の電荷バランスを崩します。電子を受け渡されることで酸素が分子が細胞内に増えるとそれは酸化ストレスとして知られるように細胞内分子の結合を切ったりして細胞を壊してしまいます。
ではリン耐性を持つような細胞は、もしリン酸とヒ酸が近づいてきた時にどう見分けて細胞内に入れないように対処するのでしょうか。リン酸を取り込む細胞の分析では、リン酸は細胞内に取り込むが、ヒ酸は取り込みませんでした。これはリン酸(HPO4 2-)とヒ酸(HAsO4 2-)の構造のわずかな違い(原子間の結合角の)違いを「鍵」のように認識して見破っているということのようです。
貞子DXの映画予告をみて、仲間由紀恵や阿部寛が出ていたトリックが思い出されたので、トリックのドラマシリーズを見てたんですが、水に溶かした毒を使っていました。そしたらなんとなくヒ素について気になったので書きました。画像はみんなのフォトギャラリーからで、「ニュージーランドのデビルズバス(悪魔の浴槽)、ヒ素によって淡い緑色をしています」という説明がついていました。
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