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劇場版忍たま乱太郎~ドクタケ忍者隊最強の軍師~が面白すぎる

はじめまして
令和6年12月20日に封切りされて早4週間。
1~2回見に行ければいいかなあと思っていた『劇場版忍たま乱太郎~ドクタケ忍者隊最強の軍師~』(以下、「軍師」という。)があまりにも面白く、気が付けば8軍師目になりました。
まだまだ行くと思いますが、このあたりで一度、感想を書かないと爆発しそうなのでnoteを作りました。
 
【書いている人間と忍たま】

  • 忍たまは子どものころからずっと見ていた。子供のころ好きだったエピソードはヘムヘムが「ヘムヘム」って鳴くようになった理由の話。

  • 2011年の『忍たま乱太郎忍術学園全員出動!の段』前後でオタク的なハマり方をする。五年い組学級委員長委員会の尾浜勘右衛門くんを中心に五年生にめちゃくちゃハマる。好きな委員会は学級委員長委員会。

  • 以来、熱が上がったり下がったりを繰り返しつつ、原作、アニメ、ミュージカル、ドラマCDなど全般的にゆるく追っている。見てない回も普通にある。

  • 軍師の小説は発売当初に読んだけど、土井先生のドジ!きり丸かわいそう!の気持ちと好きな学年がほとんど出てないのでいまひとつピンと来ていなかった。(今読み返したら大変面白かったです。) 

ということで、子どものころは忍たま見てたけど詳しくは知りませんという人の初々しい感想でもなければ、コアな忍たま・落乱ファンというわけでもない非常に中途半端なオタクによる感想になります。

以下、ネタバレしかありません。



【おさらい・大まかなストーリー】

あえて書き出すまでもない気がしますが、自分用の整理として最初に書いておきます。
軍師を三幕構成と捉えるとこんな感じでしょうか。 

〈第一幕〉発端・土井先生のいなくなった学園

  • 諸泉尊奈門との果たし合いの最中、崖下に落下していく土井先生

  • 行方不明となった土井先生

  • 土井先生の代わりに一年は組の授業を担当する雑渡昆奈門と諸泉尊奈門

  • 山田先生と六年生を中心に密かに行われる土井先生捜索

  • ドクタケの不穏な動き

  • アルバイトに出た先で六年生の会話を聞き土井先生が行方不明であることを知るきり丸

  • ドクタケがスッポンタケとの国境に一夜で城を築いたという情報がもたらされる

  • 土井先生がいなくなる夢にうなされるきり丸

〈第二幕〉天鬼という軍師

  • 相変わらず続く雑渡昆奈門・諸泉尊奈門の授業

  • 元気のないきり丸

  • 休日、きり丸の様子がおかしいことを一年は組のみんなに話す乱太郎としんべヱ

  • 長屋の掃除ときり丸の回想

  • 土井先生捜索に進展があり、ドクタケ領内に向かう六年生

  • 長屋掃除の帰りに六年生を見かけて追いかけるきり丸

  • ドクタケ領内の竹林、ドクタケの軍師・天鬼と六年生の戦闘

  • 天鬼は記憶をなくし、ドクタケに洗脳(?)された土井半助だった

  • 六年生から天鬼の報告を受ける学園長

  • 軍師の正体を知り本件について学園との決別を示す雑渡昆奈門

  • 忍たま長屋に戻るも部屋に帰らず一人で飛び出そうとするきり丸に声をかける一年は組

  • 事情を知り、みんなで土井先生を取り戻しに行く一年は組

〈第三幕〉土井先生を取り戻せ!

  • 天鬼がドクタケ城内にいないことを聞き出し、荷運びにまぎれてスッポンタケ側砦に向かう一年は組

  • 山田伝蔵が単独調査中に山田利吉&卒業生と遭遇し、彼らに雑渡昆奈門の足止めを任せる

  • スッポンタケ側砦に潜入した一年は組、運ばれた物資は兵糧ではなく、一夜城がハリボテであることを知る

  • 一年は組大黄奈栗野木下穴太から天鬼の居場所を聞き出すが、ドクタケに捉えられてしまう

  • ドクタケがスッポンタケと戦を始めようとしているのは欺瞞であり、真の狙いはチャミダレアミタケがタソガレドキを攻め、兵力が分散した隙に両国の領地を切り取るという漁夫の利であった

  • 土井半助救出作戦に向かう山田伝蔵&六年生&五年生

  • 交通量調査中の五年生がドクタケ東砦に向かうドクタケ忍者から密書を奪い、一年は組がドクタケに捉えられたことを知る

  • 雑渡昆奈門vs山田利吉&卒業生

  • ドクタケ東砦への潜入。一年は組及び土井半助救出作戦の開始

  • 捉えられていた小屋を脱出し、八方斎の居場所を突き止める乱きりしん

  • 六年生による砦内の陽動、救出される一年は組

  • 乱きりしんを斬れと天鬼に命じる八方斎

  • 乱きりしんの呼びかけで記憶を取り戻す土井半助

  • 後始末

  • 学園へ帰る(勇気100%)

  • エンディング

結構端折ったつもりですが、それでもなかなかのボリュームです。

上級生含む大人側の軸、一年は組の軸と大きく分けて2つの軸でそれぞれに物語が展開していくので90分弱とは思えない本当に見ごたえのある映画でした。


【一年は組のよい子たち】


軍師が「忍たま乱太郎」の劇場版として本来のギャグアニメの核を保っていたのは、ひとえに一年は組の存在です。
一年は組のターンはできるかぎり「いつもの忍たま」のノリでうそやで~のギャグをやっていましたね。彼らが物語の中心から外れないことで、ものすごく深刻なストーリーに一定の軽やかさが出ていて本当にバランス感覚の見事な作品だなぁと感じています。
 
小説版だときり丸が一人で天鬼の件を抱え込んでしまっていてかなり胸が痛くなるのですが、劇場版では乱太郎としんべヱがきり丸の異変にすぐ気がつき、一年は組に共有し、みんなできり丸の話を聞くという流れが加わり、一年は組の団結力・友情に胸が熱くなりました。
(ターゲット層とか媒体の違いもあるので、どっちが優れているという話ではありません。繰り返しになりますが小説も面白いです。) 

土井先生奪還における一年は組それぞれの個性の描き方は素晴らしかったですね。

  • 「みんなで土井先生を取り返そう!」と最初に言い出す主人公・乱太郎。

  • 前作映画のセルフオマージュ「レレレ作戦」がちゃんと成功している。

  • 行き詰ったところで次の策を提示する庄左ヱ門。ここの「えっ、きり丸らしくない」の言い方大好きです。

  • 兵糧運びの人足手伝いの交渉をする団蔵。

  • 隠れ蓑用の米俵を自作する兵太夫と三治郎。ところで、この隠れ蓑用米俵が猛スピードで砦を転がり落ちていくシーン、「おい!死ぬだろ!」ってめちゃくちゃ焦りましたが一年は組のターンはギャグマンガの世界なのでピクピクですんで良かったです。

そして、しんべヱについて。
しんべヱみたいな食いしん坊のおっとりキャラクターって言葉を選ばずに言うと物語の上では足手まといになりがちですが(実際原作やアニメでそういう描写も結構ある)、むしろ土井半助救出作戦のMVPは彼だったのではないでしょうか。

〈本作におけるしんべヱしゃまの功績〉

  • スッポンタケ側砦に運ばれている物資の匂いから兵糧ではないことを見破る。

  • 大黄奈栗野木下穴太から天鬼の居場所を聞き出す。

  • は組が捕らえられていた小屋の壁を食い破り脱獄に成功する。

  • 甘味の匂いから八方斎らが控える砦内の隠し通路・隠し部屋を突き止める。

  • さらに芋がらとよだれの痕跡により同地へ山田伝蔵を導く。

  • 天鬼に怯むことなく「手のひら返しの術だ!」のボケで乱太郎とともに土井先生の記憶を取り戻す最初の糸口を掴む。

誰一人かけても成立しなかったクライマックスのドクタケ東砦戦ですが、改めて書き出すとしんべヱの功績がでかすぎます。絶対にギャグマンガの登場人物の枠から出ないという安心感もある。
ラストの天鬼との大修羅場のあとすぐにボーロをパクパク食ってる豪胆さ、本当に痺れました。
 
ところで、みんな土井先生のことは大好きだし悪口言われたら本当に怒るけど、だからといって「土井先生のために良い成績を取ろう!」とはならないんですよね(なっても一夜漬けとか一過性のもので終わる)。
一年は組は、一生懸命勉強しているけどできないのではなく、興味あることはやるけど教科はそもそも全然勉強してねぇのタイプが多いあたり、すごく子どもらしいなぁと思います。
分かる。勉強なんてしたくないよな。

あと、夏休みのシーンで音だけ聞こえてくるからくりコンビの会話が本当にかわいかった。
 兵太夫「帰る前に僕の家によっていきなよ」
 三治郎「えー!いいの?」
一はで唯一実家が武家ということ以外に親の情報が全然ない兵太夫くん。家に三治郎くんを招いたりするんだね…


【スター集団六年生】


六年生は上級生の中で出番も一番多いし、ミュージカルではほぼ毎回主役だし羨ましいな~って気持ちで見てしまう一方、アニメでは一番真面目にお笑いをやっている学年でもあるなと思っていました。
圧倒的な個性、バラエティに富んだ得意武器、華がありますね。
 
ただ、今回の映画では強烈な個性をさらに誇張して描かれているテレビアニメ版とは少し違う描かれ方をしています。
 
ギンギンに忍者している潮江先輩は、土井先生がもしかしたらもう死んでいるのかもしれない可能性を示唆して自分が一番傷ついているし、食満先輩に胸ぐらを掴みかかろうとしても言い返しません。かと思えば、普段は落ち着きのある中在家先輩が一番取り乱してしまう。
なお、六年生の話し合いのシーンで六年い組対ろ組&は組の構図になっていますが、この言いづらい提案は六い2人で話し合った上での提案なんだろうなぁ、潮江先輩が自分から憎まれ役を買って出たんだろうなぁと勝手に想像して潮江先輩に思いをはせてしまいます。

そして、保健委員会委員長の善法寺先輩は、全員結構な大けがをしているのに「かすり傷です!」と言い放つ。
クールで優秀だけど厳禁のイメージが強すぎる立花先輩は六年生の司令塔として随所で「この人本当に優秀なんだ…」と思い知らされます。ついでに厳禁なら100個くらい出てくる焙烙火矢・煙玉に予備がない。
いけいけどんどーんの七松先輩は、今回一番冷静に俯瞰して全体を見ていたのではないでしょうか。ドクタケ砦の隠し部屋の外から土井先生救出班のみなさんが「土井先生!」と叫んでいる中、ただ一人黙々と苦無で柵を破ろうとしている姿が印象に残っています。
 
六年生先輩もまだ15歳なんだよなと思う場面と、やっぱり六年生ともなると違うなぁ!と思う場面の塩梅がちょうどよく、一年生と対照的に「いつもと違う忍たま」を担ってくれていたなあと感じます。

ここまで書いておいて今さらですが、あまり六年生先輩に造詣の深くない五年生のオタクが書いています!
先輩方のファンの方からしたら別に意外でもなんでもねえよって感じだと思います!
あくまで傍から見たらの話をしています!許してください!(直角のお辞儀)

改めてかっこいい六年生って本当にかっこよかったです。
 


【五年生をありがとう】


今回の映画、五年生ほとんど出てこないだろうと思って見に行ったので、五年生の見せ場もちゃんとあって五年生のオタクとしては大喜びでした。
 
五年生の主な出番はチャミダレアミタケ側の3つの砦に向かう伝令の数の調査。
かなり「忍者らしい」任務です。
ここまで必死で土井先生を捜索する六年生や先生、一年は組を見てきたので、いきなり「飽きた~」などとあくびをしながらぬかす全く緊張感のない五年ろ組学級委員長の鉢屋三郎くんにはビックリですが、オタクは大喜びです。
すみません、この人は、こういう人なんです……別に土井先生に思い入れがないとかでは決してなくて…本当にただただ飽きちゃったんです……。
 
そして学級委員長委員会のオタク大歓喜シーン、足軽に成りすまして密書を奪う学級委員長委員会。結構危ないことを思いつきでサラッとやる級長たち。本当にありがとうございます。
 
 尾浜「あれ、奪えないかな?」
 鉢屋「やってみる?」
 
半ば退屈しのぎとも取れる学級委員長委員会による密書の収奪。
しかし、この気まぐれがなければ一年は組がドクタケに捉えられていることは知るよしもなく、また天鬼が東砦にいるであろうことを推定するのにもう少し時間がかかったかもしれないと考えると、先ほど挙げたしんべヱの功績しかり、本当にギリギリのところで成功した作戦だったのだなとひやひやします。
 このあとのやりとりもそれぞれ「らしさ」が出ていていいですね。
密書の内容を見てすぐに一年は組を助けに行こうとする竹谷くん、それを止めて今すべきことは報告だと最適解を選ぶ久々知くん。
豆腐が関わらないときの久々知くんて本当に真面目な優等生なんだ……。
 
六年生のような派手なアクションシーンがあったわけではないものの、やるべきことをきっちりやりつつ独自の判断もできる優秀な五年生が見られて良かったです。
願わくば、いつか映画で五年生のアクションシーンも見てみたいものです。
得意武器が何故かみんな暗器ばかりのスーパー暗器学年・五年生のアクションシーンがどんな風になるのか全然想像がつきません。

あと、次の特典が「五年生の反省会」ということで今から楽しみすぎるのですが、気配を消した雑渡さんに気がつけなかった件については正直本当に仕方ないと思う。ちなみに尾浜くんは前作の全員出動でも雑渡さんに気がつくことができていません。利吉・卒業生vs雑渡戦での実力差を考えると、これから頑張ればいいんだよ!と謎の目線になってしまいます。

ただ、戦の構えを解く天鬼(土井先生)の演説のシーンで八方斎の変装をしながらドクタケ忍者に変装している雷蔵くんの方をチラチラ見たり親指立てたりしてちょけていた鉢屋くんは本当に反省した方が良いです。
あのシーン、4回目くらいでやっとあの八方斎が鉢屋くんの変装だと気がついたのですが、あそこにいるドクタケ兵全員に顔を知られているであろう八方斎の変装を任せられる鉢屋くんの圧倒的な実力に痺れるとともに、鉢屋三郎!ふざけるんじゃないよ!の気持ち両方あります。

鉢屋三郎ってキャラクターズルい…好きだ……。
 
 


【雑渡昆奈門が強すぎる】


忍たま乱太郎の登場キャラクターのなかでも明らかに異彩を放っている男、タソガレドキ忍軍忍組頭・雑渡昆奈門さん。
原作やアニメでもかなりの実力者である描写は再三ありましたが、改めて「この人ってこんなに強いんだ」と思い知らされました。
 
ここでいう強さとは、山田利吉&卒業生を3対1で簡単にのしてしまうような戦闘力という意味ももちろんありますが、彼が何故かめちゃくちゃ肩入れしている忍術学園だっていざとなったら切ることもできるし、土井先生を始末することだってためらいなくできるという、わりと感情で動かされている他のキャラクターたちとは明らかに差別化されたプロとしての徹底した非情さを持っているところです。
学園長庵での「いつです?」は本当に怖かった。
 
軍師がこれまでの忍たまにないシリアスな作品となっている背景の一つとして、タソガレドキという第三勢力との関係性が物語の進行とともに変化していくことが挙げられると思います。
これによってすごく緊張感が出ている。
 
タソガレドキの立ち位置って前作の『全員出動』とは完全に逆転していますよね。
全員出動では、最初は敵かと思いきや保健委員会委員長への恩義から所属する城の戦いに加わらないという立場をとる。
しかし、軍師では、諸泉尊奈門に向かって一年は組の手裏剣が飛んでいくことに象徴されるように(味方に手裏剣が飛んでいくお約束)、最初は忍術学園側であったタソガレドキが油断のならない存在となり、最後は天鬼の命を狙う。

全員出動で忍軍が加わらなかったのは事実上占領下にある国の村一つを攻め落とすだけのタソガレドキ側に圧倒的に有利な戦いであり、本作での対立する大名が攻めてくるかもしれないという状況とは緊張感のレベルが全然違うので、両作におけるタソガレドキ忍軍の立場の違いも当然といえると思います。
 
それにしても、本作において忍術学園側の解決しなければならない課題が前半は「土井先生を見つける」 、後半は「土井先生を取り返す」とシンプルなものであるのに対し、タソガレドキ側(雑渡昆奈門)がやらなければならないことは下記のとおり。

  • 諸泉尊奈門との果たし合いの最中に何らかの事故に巻き込まれたであろう土井半助のことについて学園側に落とし前を付ける(学園長への謝罪と報告、土井半助の捜索、一年は組の授業代行)

  • ドクタケの不穏な動きを探る(スッポンタケとの戦の構え、一夜城の謎)

  • 隣国・チャミダレアミタケの動きを探る(ドクタケと同盟を結んだ可能性、招集している兵力と目的の調査)

  • スッポンタケの動きを探る

  • ドクタケ軍師の排除

  • チャミダレアミタケ又はドクタケとの戦への備え

各国の調査については、忍術学園側も同じような動きをしているように見えますが、あくまでも「土井先生を取り返す」という目的のなかで結果的に分かったことであり、国防上・外交上の諜報・調査として行わなければならないタソガレドキとは性質が異なります。
やることが多い。
組頭、寝てますか?

あと、これは完全に余談ですが、タソガドキ城の呼び間違えって原作では「クソタレガキ城」、アニメでは「タコヤキドキ城」なんですよね。おそらく「クソタレガキ」はEテレの夕方アニメとしてよろしくないので差し替えられているんだろうと思うのですが、映画で庄ちゃんの声で「クソタレガキ」を聞くと改めて口悪すぎんだろって爆笑しました。
 
[2025/1/16修正]
誤:クソタレ
正:クソタレ
こんな修正報告があるかよ…
 


【や、山田利吉…!】


軍師を何度も見に行き、忍たまに再燃しかけているのは正直この男のせいです。困っています。
山田先生の息子さんでフリーの売れっ子忍者の山田利吉さん。
もちろん、存在は知っていますが、学園の生徒にしか目が向いていなかったオタクなので、山田利吉さんといえばかっこよくて仕事のできるエリート忍者である反面、父上に家に帰って来いと文句たれているか、事務の小松田くんになぜかイライラしている人、あとテーマソングがやたら暗い人という印象でした。まあ大体合ってると思います。
でも30期の「思い出した手当の段」は絶対見ているのに土井先生のことを「お兄ちゃん」って呼んでいたことを忘れ去り、32期の「イライラするの段」の「お兄ちゃん」でビックリしていたという程度のアンテナの張り方しかできていませんでした。
 
そして、軍師初見時も例の「お兄ちゃん」呼びに「な、なんだ急に!」と思ったものの、それほど響くものはなかったのですが、2回目見に行ったあとくらいから「あれ?山田利吉ってそんなに土井先生に思い入れあったんだ……?」となり、アニメを見返して今大変なことになっています。
改めて原作を読み、山田利吉という人は学園に協力的ではあるものの、あくまで利害が一致したときや他の仕事がないときに協力してくれているのであって、本来自分の仕事は仕事としてきちんと線引きをしている人と再認識した上で軍師を見て大変なことになっています。
 
山田利吉さん、一体……。
きり丸がアルバイトもできなくなるのと同じように、利吉さんが仕事を半ば放り投げて協力するというのは結構な異常事態なんじゃないでしょうか。
 

『落第忍者乱太郎』22巻p.198より引用

原作の利吉さん↑
健康そうな歯をしていますね。
 
あの場面での「お兄ちゃん」呼びがやっぱりちょっと異質に感じてしまうのですが、私はそれでも必要なシーンだったと思います。
最初はびっくりしちゃって急になんか湿度が違くないですか!?とも思ったし、正直オタクに媚びているのかとも思った。本当に申し訳ないです。
でも違うんですよね……。
もしかしたら天鬼のような生き方をしていたかもしれない男が「土井半助」の道に行けた最初の分岐点があの日ピクニックをしていた山田一家に拾われたことなんです。
天鬼から記憶を取り戻したとき、草むらをかけていった先の一番最初の記憶が山田一家であったように、天涯孤独の身である男が再び家族同然のつながりを得たのだということを象徴する意味での「お兄ちゃん」だったのではないでしょうか。
軍師の構成においてとても重要な効果をもったセリフだったと思います。
ちょっと…本当にびっくりしちゃったけど……。
 
でもこれでアニメでも18歳利吉さんが容易に「お兄ちゃん」を連呼するようになるのは違うと思うので、次の公式での「お兄ちゃん」はここぞの場面だけでお願いします。
12歳利吉くんの「お兄ちゃん」はいっぱい見たいです。

さて、雑渡昆奈門戦についてです。
こちらも最初見たときは利吉さんが結構あっさり負けたことに心底驚いてしまいました。
利吉さんて、ドラえもんで言えばタイム・パトールみたいな「出てきたらもう安心」の人だと勝手に認識していたので……え、負けるんだ!?しかもわりとあっさり!?って結構ショックだったのですが、よくよく考えたらプロになってまだ数年であろう18歳と100人の部下を束ねる現役の忍組頭36歳では当然の実力差なんですよね。
軍師見るまで「プロ忍の中の実力差」というものをあまり意識していなかった(プロはみんな強いくらいの認識でいた)ので、改めて18歳ってまだまだプロの世界ではぺーぺーなんだなって思いました。
それでも最後に雑渡さんが毒を塗りたくった手裏剣を投げようとする手を止めることができたのは本当に根性があります。
原作でも再三言われていますが、忍者は結果がすべて。どんなにかっこ悪い負け方をしても「雑渡昆奈門を足止めする」という最初の目的をここで達成できたので山田利吉さんは立派なプロの忍です。

山田伝蔵の「雑渡はどうだった?」の言い方には生きて戻ってきた安堵と曲がりなりにも足止めに成功した息子に対する誇らしさもあったのではないかと思います。
 
それにしても、軍師を見てからというもの山田利吉さんのことばかり考えている。もっともっと山田利吉さんのことが知りたいです。



【ドクタケと天鬼の計略】

真っ赤な忍び装束にサングラス!デカい頭の八方斎!ドジでマヌケな愛すべき悪役、ドクタケ忍者隊!
近年はタソガレドキ忍軍とかいう本当に怖そうな人たちが出てきたせいで余計小悪党感が増しているような気がしますが、やっぱり忍たまの永遠の敵役といえばドクタケです。

だけど今回のドクタケはすごい。
すごいし怖い。
頭を打ってまつげが尖がっている八方斎の分かりやすい悪党ぶりも怖いのですが、それよりもドクタケの国力の強さが本当に怖いです。

天鬼の計略って視聴者側(私)の理解という意味でも複雑ですが、そもそも実戦的な戦略にしては複雑だし難易度高すぎるしあんなの成立するわけないだろって思ってしまいます。山の上の一夜城、教科書に載るよ。
さっき雑渡昆奈門さんのやることが多すぎるって書きましたけど、こっちもこっちでやることが多すぎるし手が込みすぎている。
孫子ワナビー・兵法オタクの考えた実際にやるにはかなり無茶な作戦を実行し、成立させてるドクタケって実はめちゃくちゃすごいんじゃないですか?
カステラとか金平糖とかボーロをお茶請けのノリでバクバク食ってるのもなんかもう本当に怖いよ。
「戦好きの悪い城」と言われているわりに城下はにぎわっているし、治安も良さそうだし、地図に出てくる4国の中で一番平野も広そうだし…
悲しいことですがドクタケに限らず貧民はどこにでもいる。栄えているから貧民がいるともいえる。

それはそれとして、天鬼のやたら複雑な計略の根底にあるのは孫子の言う「戦わずして勝つ」の思想だと思います。
軍師の天鬼が「世界平和」とか「愛と正義」とか分かりやすい善性にすがってしまう人だという前提で、平和のための領土拡大をするためにできるだけ自国(この場合はドクタケ)の犠牲を出さずにすむ方法として自分が誰かもわからないのに進言したんだろうなぁ。

少し話がそれます。私は大河ドラマが好きなのですが、大河ドラマのファン界隈では登場人物が「戦は嫌でございます」と言った瞬間「スイーツ大河」の烙印を押される印象があります。というか、私もそういうことを言うタイプのファンでした。
「戦は嫌だ」という思想は現代人的な価値観で、当時の人はそんなこと言わないという発想から来るものなのですが、はたして本当にそうでしょうか。
またもや孫子で恐縮ですが、「百戦百勝は善の善なる者に非ず」(常に戦に勝つことが最善の策ではない。戦は兵も物資も消耗するため、戦わずに敵を屈服させることができるならば、それこそが最善の戦略であるという意味)という言葉がありますね。
また、土井先生の名台詞としてよく知られている「いくさとはもったいないものさ 浪費と破壊と消耗 そこからはなにも生み出すものはない」(『落第忍者乱太郎』40巻p109)というものもあります。
理想としての平和主義は置いておいて、避けられる戦は避けるべきというのは今も昔も変わらず合理的な考え方なのではないでしょうか。

土井先生と天鬼が地続きの人間であることは、パンフレットのほかさまざまなインタビュー等で言われていることではありますが、天鬼は土井先生以上に純朴な人間であるように思います。
漁夫の利といえば聞こえはいいですが、戦を仕掛けているくせにあんまり戦したくないんだろうなぁって勝手な想像をしてしまいます。
てゆうかだから古典兵法が好きなんだと思うな。

さて、記憶を戻した土井先生が余った兵糧をドクタケ城下の貧民に分け与えるシーンがあります。
土井先生なりの贖罪なのか、こんなの一時しのぎにすぎないことを理解しているキャラクターと無邪気に笑っているキャラクターの対比とか、そういう視点で見ていましたが、ED後の竹谷くんでひっくりかえります。

 竹谷「兵糧もなく、ドクタケは戦いもせず逃げたそうです!」

え?
土井半助さん、余った兵糧を配っただけじゃなくてドクタケの兵糧枯らしたんけ????
流石に言葉尻を捕らえすぎな気もしていますが、あくまでもそういう見方もあるかもって話でした。



【土井先生ときり丸】

やっぱり軍師は土井先生ときり丸の映画だなあと思うのでこの項を立てたのですが、本当に何も言うことがない。
言葉にするだけ野暮になってしまう。

教師と生徒とか、血の繋がりのない家族とか、運命共同体とか、その関係に名前をつけようと思えばいろいろ思いつくけど、土井先生ときり丸って「土井先生ときり丸」だったんですね。
軍師を見てそう思いました。

土井先生ときり丸が、土井先生ときり丸として忍術学園で出会えてよかった。




【名前の話】

軍師で子どもの頃ぶりに忍たまを見た方が鉢屋三郎と不破雷蔵が双子ではないことに驚く趣旨のツイートが回ってきたりしてアハハ~と笑っていたんですが、そういえば軍師では登場キャラクターの所属とフルネームを言うアニメ忍たま乱太郎の「お約束」がないんですよね。
例えば、上記の鉢屋三郎と不破雷蔵の場合、いつものアニメならば乱きりしんが「あ!五年ろ組の不破雷蔵先輩!」「それとも、同じく五年ろ組、不破雷蔵先輩に変装した鉢屋三郎先輩?」と言った具合にご丁寧に説明臭いセリフを言ってくれるわけです。
でも、軍師では基本的にこういう所属とフルネーム全部言いますみたいなシーンはない。
いや、二つだけありましたね。

一つ目は竹林での戦闘シーン
潮江「あ、あんたのことだよ!忍術学園一年は組、教科担当担任!土井半助先生!あんたのことだよ!」

二つ目はクライマックス
土井「私は天鬼ではありません。私は…忍術学園一年は組、教科担当担任、土井半助です!」

この二つのシーンを際立たせるために、いつものお約束をやっていないんじゃないかと思えるくらい、クライマックスに土井先生が自分の所属と名前を言う瞬間のカタルシスは半端ないです。



【教わったところかも!】


映画見た後に改めて原作を読み返していると、「あ!映画でやっていたあれってもしかして土井先生たちが教えてくれたこの術!?」と思うところがたくさんあったので、おそらくそうだろうというものを抜粋して書き出しておこうと思います。
いや、その術とあの術は全然イコールではないよというのもあるかもしれないので、そっと読み流してください。
 
※原作のセリフに句読点はありませんが、読みやすくするために勝手につけています。
 

  • 米俵になってスッポンタケ側砦に潜入する一年は組

山田先生「そこで だ 兵太夫っしんべヱっ三治郎っ米俵になれ。その米俵を団蔵の馬につんで関所を通るのだ。隠れ蓑の術だ」

落乱14巻p.43
  • ドクタケ東砦に土井半助を奪還しに行った夜の空

きり丸「忍びこむときは月が出てないときをえらぶこと。これを、これを あれ?なんってったけな?」
山田先生「あーもうっ 『地蔵薬師の前後を選ぶ法』だっ 教えただろーがっ」

落乱19巻p.149

上級生と山田先生が忍び込んだ日、夜空は分厚い雲で覆われて月が隠れていましたね。そして、少しずつ雲が晴れていき土井先生が記憶を取り戻すとかわいいウサギが餅をついている満月が顔を出しました。ここの演出大好きです。

  • 足軽に変装する先輩たち

乱太郎「わー先生なんですかそのカッコ」
土井先生「さっき手に入れたナルト軍の足軽兵の服装だ。足軽は数が多いし みんな同じカッコをしてるからバレにくい。これを『賤卒に姿を変える之術』といい、こうして敵にまじることを紛れ忍という」

落乱5巻p.115
  • 子どもたちを斬ろうとしている天鬼に伝蔵が投げていた玉

大木先生「読者のみなさんに説明しておこう。いま投げたのははじき玉といってかくし武器のうち投物なげものとよばれるものである。小さな鉛の玉を人差し指と薬指の先にはさみ中指と薬指を使って中指で強くはじき出し敵の急所を攻撃する」

落乱22巻p.124
  • チャミダレアミタケ兵に扮する若王寺とドクタケ忍者に扮する桜木がもたらす密書

山田利吉「本物の設計図とすりかえたんだ。そして、わざとつかまり敵にそのニセの設計図を取らせる。そうすりゃ敵はそれをニセ物とはうたがわないだろう。このようにわざと敵にニセの情報を渡すことを『偽書の術 蛍火の法』という」

落乱20巻p.36

映画においてはニセ情報ではないのですが、偽書であることに変わりはないし、手法は完全にこれですね。
映画と全く関係ないけど引用元のエピソードでは山田利吉さんと山田先生が乱太郎に無断で蛍火をやらせています。また、山田利吉さんは44巻でも小松田くんに無断で蛍火をやらせています。これを『偽書の術 無断蛍火の法』と言います(ません)。

  • スッポンタケとの戦の構えをしていると見せかけてチャミダレアミタケとタソガレドキの領地を狙う天鬼の計略

庄左ヱ門「目標と全然ちがうところを攻撃するフリをして守りをそこに集中させる。当然ほかの守りは手うすになるから その手うすになったところを こんどはほんとうに攻撃する」
土井先生「その通り。目標をたやすく攻撃するための方法だ。これを『偽撃転殺(ぎげきてんさつ)』という」

落乱14巻p.158

これはほぼこじつけです。落乱に出てくるので一番要素として近いのがこれかな~ってレベルです。
 

  • おまけ:道端の石仏

落乱14巻p.55より引用

忍術でもなんでもないのですが、六年生による土井先生捜索シーンでやけに印象的に映る忿怒の相をした観音様。
一瞬しか映らないので毎回行くたびに、斧!よし!金剛棒!よし!金剛輪宝!よし!と一つ一つ持ち物チェックをしてあの仏像は馬頭観音であると結論づけていたんですが、原作に普通に出てきていたので追記しておきました。
あのシーンにカットインする馬頭観音、絶対に何らかの意味を持たせているはずですが、そこはもう各自の解釈ってことでいいんでしょうか。本当にわからない。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
本当に素晴らしい映画でした。
言いたいことはまだまだあるのですが、収拾がつかなくなってきたので、このあたりで終わりにしようと思います。

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