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経営理念浸透の3つの流れ『経営理念の浸透』- ①

理念浸透について考えるにあたり、何冊か関連図書に手を出したのですが、最も学びが深かった『経営理念の浸透』について数回にわたって紹介します。
今回は本論に入る前の所謂先行研究の整理パートですが、理念浸透について考えるうえでとてもよい整理になるのでここからスタートします。

1. 構造主義的組織文化論の影響

好業績を上げる企業の一つの特徴として「強い」文化を持っていることが掲げられ、その中で理念浸透がフューチャーされる、という潮流です。

Peters and Waterman (1982) も, 全社的に浸透した, 企業が信奉する価値観に基づく実践が超 優良企業の競争優位の源泉の核であると主張していたように, 「強い文化」論 では中核となる少数の価値観が企業内で浸透し, 組織文化として定着すること が組織の業績向上につながるとされてきた。

高尾義明; 王英燕. 経営理念の浸透 (p.18). Kindle 版.

この潮流の中では経営者が強いリーダーシップのもとに組織全体に理念を浸透させていくことが念頭に置かれ、組織全体を対象とした理念浸透のプロセスが注目されます。

2.個人の能動的主体性の強調

1が組織全体に注目したアプローチなのに対し、ミドルマネージャーなどがミクロ的にどのような行動を取り、理念浸透の一旦を担っているのかに注目しているのがこちらです。

たとえば, 金井 (1986, 1997) は, Bandura (1977) の社会的学習理論を経営 理念の浸透に応用し, 観察学習モデルを提示した。 組織成員が経営トップやミ ドル・マネジャーの日常行動を一種のモデル (手本) として観察し, 要約ラベ ルとして機能する印象深いエピソードや物語を手がかりに, 経営理念として掲 げられた抽象的な言葉を行動レベルに解釈していくという浸透メカニズムが示 されている。

高尾義明; 王英燕. 経営理念の浸透 (p.20). Kindle 版.

1の持つマクロ的な観点を前提とし、そこを補う形でミクロ的な浸透プロセスを捉えたものと理解できます。

組織成員の能動性に注目 した興味深い考察として, 北居 (1999) の理念浸透 の読者論を挙げることができる。 そこでは, 経営理念の浸透とは, 多くの経営 理念研究が前提としていたように, 理念の作者である創業者や経営者から一方 的に行われる行為として捉えるだけでなく, 理念の読者たる組織成員による, テクストを読む行為と類似した主体的営為と理解できると主張されている。

高尾義明; 王英燕. 経営理念の浸透 (p.21). Kindle 版.

3. 組織視点と個人視点の統合

1と2のミクロ・マクロのアプローチを統合し、理念浸透を組織全体と個人の両者の視点からとらえようとするアプローチが生まれます。筆者の先行研究が紹介され、本書もこの流れに沿ったものであることが言及されます。

実践への含蓄

多くの組織で理念やMVVの浸透の重要性が叫ばれるものの、その正しい浸透プロセスをはっきりと説明することは極めて難しいです。
その中でも間違いないのは組織理念の浸透には組織を全体として捉えた意図的なアプローチとミドルマネージャーを中心とする個々人のミクロな振舞いが共に重要な役割を担っていることです。

全社的にどのように組織文化を浸透させればいいのか、その中でも私個人はどのような振舞いをするのが望ましいのか、組織文化論や理念浸透についてはこの2つの視点で捉えることが欠かせません。

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