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牛ガエルの話

母は駄菓子屋の卸を生業としていた。が、時代の流れで駄菓子屋の廃業が、一つ、二つと増えていくにつれて、母も副職を見つけなくてはならなかった。その一つが鰻のシラス採りだった。その鰻シラス採り前に、副業として選んだ職がある。

それが食用カエルを捕る仕事である。これも、シラス採りをしていた知人から紹介された仕事だった。

カエルと言っても、ガマガエルではない。大きいのだと、重さ1キロ以上もある大物である。低い声でグォーグォーと鳴く。その鳴き声が牛に似ているので、「牛カエル」と呼ぶ人もいる。

それを竿の先に付けた釣針で引っ掛けて捕るのである。捕った後、その針を外して、背中に背負った大きな竹籠に入れる。20匹も捕れば、重さ20キロを超える。ずっしりと肩に食い込んで来る重さだ。

そのバイトを、高校2年生の時に挑んだ。捕れば捕るだけのバイト料をもらった。が、シラスと比べたら、その重さの疲労度が格段に大きかった。母も、この牛カエル捕りはきつかったようで、長続きしなかった。

後年、母はよく言ったものだ。

「カエル捕りに比べたらシラス採りは楽ちんさ。しかも、シラスは軽い。50グラム採れば十分だもの。」

今住んでいる所から200メートほど先に人工的に作った蓮池がある。そこに、誰かが投げ込んだのであろう。春から夏の間、牛カエルが鳴く。

その牛カエルの声を聴くと、懐かしい思い出が蘇り、涙ぐみたいような、なんとも名状しがたい気持ちになる。

きょうは氷点下1度だった。蓮池からは牛カエルの声はしない。冬眠しているのだろう。

春が待ち遠しい。

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フンボルト
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