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机間指導ノイズの思い出
私が中学生の時に感じた「机間指導ノイズ」について書く。
一斉指導の合間に「机間指導」(机間巡視と言うこともある)をする先生がいた。国語科のS先生は、「2年生の目標」という文題を与えて、原稿用紙を配った。事前指導は、段落取り、句読点を忘れるな、ということ以外は何にもなく、自由に工夫して書け、と言われるだけだった。
私は、原稿用紙の余白にメモっていた。いわゆる構想メモである。それが終わるや否や、「私の小さな目標は三つである。」と書き出し、そこで一息ついた。すると、足音が聴こえるではないか。S先生が机と机の間の通路を歩きながら、しゃべるのである。それもみんなに聴こえるような大きな声で。その瞬間、イラッとした。作文は読むこととは違って、脳の出力量が大きい。脳内で構想を立て、読者は面白く読んでくれるか、どんな展開なら書いていて面白いか、縦横に思考を巡らせる。先生の声、ノイズなんだよ、そう思うが、まさか声に出して言うことはできない。我慢しながら、私の近くから去ってくれることを願う。
「おい、最初のひとマスは空けるのだ。」
先生の声が聞こえる。E君に言うのに、(そんな大きな声で言わなくてもいいのに)と思うが、先生の個別指導は一斉指導の時とほぼ同じ大きさの声である。
(ああ、やっておれない)
心の中で呟く。いい着想が浮かんでいたが、先生の机間指導ノイズになやまされ、とうとう時間切れで、持ち帰りの宿題となった。
ここからは、きょう私が見た中学校書写を担当する20代の先生の机間指導である。
その色白で背の高い先生は、歩きながら小さな声というより囁くような声で、「ここのとめはらいはよく書けている。手本を見る目力もあります。」と呟く。他の生徒に聞こえない。聞こえがしに言う指導は、一斉指導であって、机間の個別の指導ではない。
机間指導とは、上のように個別に伝える指導だ。私は、20代のT先生の声を聞きながら、過ぎ去った中学生時代を思い出して、羨ましく思った。
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