雪を食べた記憶
それは朧気な記憶のような、それでいて絵を見ているような記憶であった。
ねんねこ半纏にくるまれた私は、母に抱っこされいる。父は裸電球の下で朗らかに母と話をしている。父もまた丹前に羽織を身に纏い、火鉢の側でシュシュンと湯気を立てるやかんの音を聴いている。
父が南雨戸を開けに行く。
開けた瞬間、白いものが目に入る。
「大雪ばい」
父は、その雪を片手で掬い取り、火鉢のある座敷まで運んで、ねんねこ半纏にくるまれた私の口に注ぐのである。
「そがんこと、せんと」
と母は朗らかな声で言いながら、笑うのである。
ただこれだけの記憶。
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