10月29日の学び
その日の私は、何かが違った。
そんな気がしたのは全くの気のせいで、いつもと同じように朝から慌しかった。出勤時間ギリギリにズボンに足を通し(ちなみに右足から)、ファスナーをあげ、ホックをはめようとして気づく。
あら。ホックが取れかかってるじゃないの。
でも仕方がない。ホックが取れかかってるのは、実はいつものこと。まだ大丈夫。とれやしないさ、と自分に言い聞かせ、私は慌てて家を飛び出した。
職場のトイレで鏡を見て、私は違和感を覚えた。
ああ、完全に取れてるじゃないの、ホックが。
私は仕方なしにホックをハサミで外すと、インしていた薄手のニットを外に出し、ウエスト部分を隠した。今日の服装は、ニットをインしてた方がオシャレに見える気がしていたけど、この際、仕方がない。
ズボンが入らなくて、ボタンを開けてる人に見える方が恥ずかしい。
その日は、別の場所で講演会に参加する必要があったので、私はニットでズボンのウエスト部分を隠したまま、会場へ向かった。
講演はタメになる話で、非常に学びになった。
しかし、講演を聞いている最中、私はどうしてもウエストが気になった。いつもより、ウエストに肉が乗っている感じがしたのだ。こんなに私のウエストは、張り詰めていただろうか。いつ、ファスナーが下がってきても、おかしくなさそうな緊張感。講演の最中、私の頭の中で、米良美一のビブラートが響きだす。
張り詰めた〜〜〜〜〜〜〜〜♪
安心して欲しい。立った瞬間に、じじじ、とファスナーが下がったりは、しなかった。しかし、腹具合がイマイチだ。張り詰めた腹に、ガスが溜まっていそうな感じがする。私は講演会に参加中の身である。後ろの席には人がいる。けれど、私にはコントロールできない。おならを止めることなど、願っても叶わない。私がコントロールできるとすれば、放屁のスピードくらいのものだろうか。
私は絶妙な力加減で、尻の穴の筋肉を緩めた。
尻の穴から出た空気は、尻の割れ目を伝い、音もなく空気に帰っていった。
私は、すん、と鼻から空気を吸う。
……セーフっ!
臭くなかった。
安堵ともに、講習会への参加は無事に終了。
私は帰宅後、ズボンを履き替えて、安堵した。ポケットには切り離したホックが入っていた。私はホックをじっと見つめた。今日、学んだこと。それは、
やっぱり、ズボンはゴムに限る。
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