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新作歌舞伎《刀剣乱舞 月刀剣縁桐》感想(主に義輝と三日月宗近のこと)

よかった。ゲーム未プレイ者ながら、しっかり楽しみました。
以下はネタバレにガンガン触れながらクライマックスまでばっちり言及しますので 構わないぜっ!て方か鑑賞済みの方だけどうぞ。
観たのは7/7(金)、12:00~の回です。


刀鍛冶から始まるの、"刀たちの物語を、順序立てて見せる" って感じで良かったなぁぁ……

3階の下手側の脇から観てたために、双眼鏡を構えると舞台を斜めから覗き込むような角度で見えたのですが、
トンカンやってる金床は、打ち途中の刀身を置く左右に広めの円盤が嵌め込まれてあり、それがどうも2ヶ所か3ヶ所くらいをビス留めしてある感じで、なので留まってない板部分を叩くと大きく振動するんですな。場所によって音の高低が変わり、それがために3人で叩いてちょっとずつ音程の異なる音楽を奏でる感じになってた。ははぁ。
しかし日頃から舞踊をなさり、また和楽器のお稽古の経験もおありなので出来るのが当然っちゃ当然なんでしょうが、役者さんて音楽の素養も無いとああいう間のよい動きはなされないわねぇ……。パフォーマンスとして既に美しかった。

で義輝です。人との出会いに(結果として)恵まれなかった将軍です。

(序盤の寓居の古寺の場、「花の御所を出られて」みたいな台詞のとこで《花の御所始末》を思い出してグゥッて込み上げたよね……室町幕府はおれに効く……)

義輝さ~~~……馬鹿じゃないのに、心が削られて削られてうっすく脆~くなってたところに、付け込まれてしまったのだよね、果心居士たちにさ……。近くに良臣たる弾正久秀も久直も居たのにさ……。

話の筋で うまいな~(えぐるな~)と思ったのが、【果心居士たちに会う前に宗近に出逢っている】点だと思いまして……
そのために、「あのとき、たとえ一時でも "仕える" とさえ言っていれば、安心させてさえいれば、あんなことにはならなかったのでは」って惑うわけじゃん!? 宗近が! そうじゃないすか!? えぐいよ~~~ 人の心は無くても心は有るものに何させとんじゃ脚本~~~!!!!(※好きです)

クライマックスは基本アップで右近丈義輝・松也丈宗近の二人のお顔をガン見してまして(たまに双眼鏡外して全体を見てた)、だからさ~~~あの熱く激しい、そして悲しいぶつかりあいがさ~~~~今そこで初めて展開されているようにナマナマしく見えてさ~~…… 泣くと思ってなかったんだよ、ここに至るまで物語で泣かされると予期してなかったんだよ……

義輝はさ、
貴方の命をいただくと、己に向けられた宗近の目を見て、ああ本気なんだなと、自分を殺す気で来ているのだなと、理解して、ならば武士らしく、将軍らしく闘って死のうと、自分の最期を受け入れるわけじゃないですか。
彼がずっと抱えていた迷いが、どう生きるべきかという惑いが、そこでスッと晴れるわけじゃないですか。
なのに、宗近と真剣に斬り結び、劣勢になり、命をとられる、と覚悟した瞬間に、斬撃が来ない。どうしたのかと宗近の顔を窺って、悲しみの色を目の当たりにする。
本当は自分を斬りたくないのだと、痛いほどに解る。
この男は、本心では自分に生きていてほしいのだと、諒解してしまう。

晴れたばかりの無念の雲が再び義輝を包み込む。自分とて、この男とまだ時を過ごしていたいのに。生きて、共に在りたいと願っているのに。

しかし同時に、本心から自分を悼んでくれていることも理解する。
自分の死によって引き起こされるこの男の深い悲しみが、義輝の胸にあたたかく広がって、荒涼とささくれた心に沁みてやわらかく潤してゆく。

生きたい。けれど、生きた意味は、もう出来た。自分の生まれた意味は確かに有った。この男の中に、己は生きた。

何も信じられなかった義輝が、ようやく、確かに信じるものを掴んだ。
そのことを自覚して、深く穏やかな満足を得て、義輝は果てることができたのだと思う。


こ れ を K S O D E K A 感 情 っ て 云 わ ず し て ど う す る ん だ よ ! ! !


なんだよ~~~~なんですかよコレ~~~~~~!!!!!!! こんなどえらいモン見せられるとは予想してなかったよ~~~~~!!!!!!!(※目の端から涙がたぽたぽ落ちてマスクに沁みた)

そこに至るまでの宗近の苦悩を、ためらいを、特にセリフで語らせることなく、代わりに周りの刀剣男子たちが "おまえの辛さはわかっているよ" て言ってあげることでさぁ、宗近のキャラも立つしチームの相互理解や仲間意識もきれいに出るじゃない!!? うめ~~~~脚本と演出がうめ~~~~~!!!!!! 好き~~~~~!!!! ありがて~~~~~!!!!!


で もうひとつすごいのが、義輝と宗近を演じておいでの右近丈と松也丈が、今まさに劇中の人物と同年代(※宗近の実年齢はともかく見た目は)であり、
また互いに気心の知れ合った同輩でもあるっていうシンクロ性ですよ~~~~~~ 感じられるリアリティが迫真で凄いんだよ~~~~!!!!!
こんなん……こんなん現在進行形でぶつけられてみ!!? 泣かずに済むか!!?? 足場がぐわ~~んと回転してる最中にさ!!!??(※ほんとう 吊り橋効果か?)

オーバーでなく今しか観られない舞台なんですよ……… 再演したとしても この年恰好でこのお二人ではもう二度と観られないんですよ………!!!!

(ただ、演目として残り続けて、その時その時の「盟友」の役者さんたちが演じなさるのを観たいなとも思う。それはすごく思う)


作中では、義輝が宗近に初対面時から惹かれる理由や、心安い思いを抱くわけは語られていない(ゆえにめっちゃ一目惚れからのブロマンスに見える)し、暗闇の中で月の光にほっと安堵するようなイメージが重ねられていると思うのだけど、(いわゆる "母性" っぽい引力を義輝は宗近に感じてる気がする)
宗近のほうでも、義輝は自分を愛でてくれた人間であって、そういう意味では双方向に "親" への思慕に似た親愛を感じていたと云えるのではないかねぇ……

親という後ろ盾を失くした義輝の心細さに柔らかい光を投げかけて、暗闇の中を照らしてくれた宗近が、しかし自分に仕えるわけにはいかないときっぱりと一線を引いたことで、
たとえ傍に居ると約束してもらっても、一抹の物足りなさ、満たされなさを捨てきれず、
そのことが弾正の献身に己を任せきることを妨げ、異界の者たちに付け入らせる隙を生んでしまった……と考えると宗近がすんごいオム・ファタルになるな!!!? つらいな!!!? ヤダーー!!!!!(でも好きです)

シナリオの弱みとしては、「宗近たちの介入によって戻される」「本来の歴史」が、「本来」は何故弾正の裏切り行為を生んだのか(←宗近たちが居なくてもそういう流れになってたのか)ってとこが見えてこない点かなぁと思うのですが、そういう、卵が先か鶏が先かってパラドックスは定型としてアリだし宗近が正史の上でマッチポンプの毒夫でも別にいいです、それだけ重要ってことなので。(ごめんなさい)

ちなみに、兄義輝と同じく保護者を失って寂しい思いをしていた紅梅姫が、宗近に惹かれてゆくのも、ただ見目や佇まいが良いからってだけでなく、
失われた "親" の要素に安らぎを覚えたからって見方もできるんでしょうねぇ……。

パラドックスよりも惜しいなと脚本に対して思ったのは、活躍がいまひとつ薄いなと感じられた、小烏丸の扱いでした。
この物語の冒頭で、刀鍛冶が今まさに刀を「生む」様子、すなわちこの世に彼らを生じさせた "男親" としての姿を見せてくれるので、
せっかくいらっしゃる「刀の父」たる小烏丸が、父要素に絡んでくれてたら尚更よかったなと思っております。

(このへんの "親(父)と子" の関係性の重要度は、弾正久秀と久直の松永親子が飛び梁状に物語を支えるので、そう的外れでもないように思うんですよね……)

これは演出がうまいな~~と思ったのが、舞台をぐるり回すことで、あの山状の傾斜のセットを360度見せることで、"裏側に何も無い" ”向こう側も切り立った崖" ってイメージを観客にしっかり持たせる点!!!
(※わたしは上記の通り3階の斜め視野でしたので、黒衣さんの頭のてっぺんがサッと動いたり、ぼふんとキャッチされたらしい動きの気配も見えましたが、あれを真正面から観たら怖いくらい落差を感じるだろうな……!!と思いました)

なお、久直の演技は、座った席のポジションのために最後の説得の場を除いてちっっっとも見えなかったです。初登場も果心居士との睨み合いもお諫めも額を割られて激昂なさるとこもまるっと死角。
お声だけは聴こえました。硬派でかっこよかったです。
(鷹之資丈に関して云えば、久直ポジションは大部分下手側で、同田貫ポジションは比較的上手側でした。ので脇に座るならその対岸がよろしうございます)

なのでモニターでしか見られなかったけど、己の命をもって父を説得しようと決めたあと、花道七三で立ち止まって、裃の肩衣を固い手つきで ギッ、ギッ、ギッ、と直す動き、かぁぁっこよかったっすねぇえ……… いいんだ、映像になれば絶対入ってるお姿だから………。

あと、これも映像でどうなってるか確かめようと思ったのが、三日月宗近の髪。
行先が室町時代だって聞いたところだったか、黙然として花道へ向かう際に、手で運んだか頭を振ったか、その瞬間を見落としたのだけど、
後ろへ垂らした髪房が、気づくと頭頂にかぶさるように前へバサバサと広がっていた。花道を通って揚幕に入るまで髪を直すことをしなかったと思う。
松也丈がわざとそうしたのなら、宣材撮影ギリギリまで決めかねていたという原作デザイン通りの前髪ありバージョンのヘアスタイルに近い様相を、
あの短い時間だけでも、原作ファンに提供したかったのかなと解釈した。


と、席が理由で残念なこともあるのだけど、この席だったからこの構図で見えたって満足も各所にあって、
自分の死に際を見定めた義輝が、地面にガッと刀の切っ先を刺し、それにもたれるように(刀を抱き込むように)背や肘をやや丸め、どこか満足そうな表情をうっすら浮かべて息をつき、

ぽろりと呆気なく姿を消した

────あとにただ残る刀の寂寥感。
変わらぬ、変われぬ、美しい、刀。

そこまでの、上部に義輝、下部に宗近を配して見える斜めの構図がたまらなくキマってました!!!!!!
でもこれはきっと反対側の上手から見てもかっこよかったし正面からも真下からでも漏れなくかっこいいんだと思う!!!!!!
でもここからの景色はここからしか観られなかった筈だから!!!!!

すさまじかったよね~~~~~~あの光景の美しさ~~~~~~!!!!!
これは語り継がれると思う。すごい。演出すごい。
真後ろにひっくり返るなとは、予想してたんですよ。碇知盛のアレ。
でも思ってたような、英雄的な雄々しさや、覚悟を決めた思い切りはぜんぜん無くて。軽かった。蝉の抜け殻が幹から外れるような、線香花火の最後の球が落ちるような、予備動作の無い、ぽろりとしたモーションで。
英雄じゃない、ひとりの普通の青年が亡くなった、そういう図だった。

だからすごかった。


よかったです。観られてよかったです。

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