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気散じ(きさんじ) 気晴らし。

金曜日の夜、私は釣竿を担いで夜行船に飛び乗る。

船でひと眠りして、目覚めるとそこは東京都大島町。いわゆる伊豆大島だ。
こうして土曜日は朝一から釣り三昧ができるというわけだ。
大物が釣れたら嬉しいが、坊主でも別に構わない。
澄んだ海に釣り糸を垂れていると、いつしか心が軽くなり時間を忘れている。

釣果が上がらないうちに、秋の陽は早くも一面を黄金色に染め始めた。
大島の夕焼けは本当に格別だ。
海をはさんで望む富士山は颯爽として、力強く、ことのほか美しい。
魚を釣る為だけにここへ通っているわけではないのだと思う。

夕景に放心しかけたその時、猛烈な勢いで浮きが水中へ沈み込んだ。
きた。
夢中で竿を合わせる。
ガツンと重たい。
前言撤回。
絶対に、釣り上げてやる。

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