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海に残るか、陸にあがるか。彼は迷い立ち止まる。『ルッツ 海に生きる』スタッフブログ

マルタで小さな小舟“ルッツ”で漁師をしているジェスマークは漁の最中に船底から水漏れしているのを発見する。漁獲も少なく、修理代の工面も難しいなか、生まれたばかりの息子の健康問題が明らかになり、妻とも意見が対立する・・・

映画『ルッツ 海に生きる』
映画『ルッツ 海に生きる』

映画『ルッツ 海に生きる』スタッフブログ

マルタというとシチリアの南方の小国ということ以外、殆ど知識を持っていませんでしたが、かつては英連邦の構成国で、宗教は98%がカトリックながら、言語はラテン文字を使用するアラビア語の一種、という特異なものとのこと。
本作は日本に紹介されるはじめてのマルタ映画とのことですが、伝統的な漁法を行う漁師もの、という一種ご当地映画的な外形でありながら、時代の変化に押し流される伝統的な生活様式や価値観の持ち主に訪れる試練、というかなりシビアな現実を淡々と描いていきます。
主人公のジェスマークも実際にマルタで漁師をしているとのことで、ドラマというよりドキュメンタリー的なリアルさで貫かれていると感じます。

映画『ルッツ 海に生きる』

ジェスマークの試練は漁獲の少なさやルッツの修理のことばかりでなく、子どもの健康問題に対し、実家に頼ろうとする妻と、なんとか自分たちだけで解決したいジェスマークとの考え方の相違など、次々と問題が訪れる。
禁漁期にかかったメカジキを巡って起きる問題や、生活のために禁を冒してまで収入を得ようとすべきか、といった問題は、目前に現実として迫る貧困に対し、人はどのように対処していかなければならないか、大切なもの全てを手元に残せない場合の取捨選択という非常に難しい課題を突き付けくるのです。

映画『ルッツ 海に生きる』

タイトルにもなっているルッツは青と黄色の彩色がいかにも地中海的明るさですが、船首の左右には「オシリスの目」と呼ばれる目の装飾が施され、伝統的な漁法のシンボルとして描かれます。
物言わぬルッツが、その目を通してジェスマークに直面する問題を静かに見つめる演出は、物語のシビアさをなお一層際立たせるのに貢献していると思うのでした。

映画『ルッツ 海に生きる』

そうしたなかでジェスマークの下す決断は当事者である彼が最終的に取捨選択をした結果であり、それは尊重しなければならないのだろうと思います。
観た後もさまざまな想いの巡る、なんともいえない後味は、この硬派な物語がマルタの漁師の直面する現実の問題を浮き彫りにしつつ、世界の至る所で時代の変化に翻弄される人々にとって普遍的な問題を提起しているのだと思うのでした。

静岡シネ・ギャラリー 上映情報

2022/7/22(金)~8/4(木)
①17:40~19:20

(C) 2021 Luzzu Ltd

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