見出し画像

巡礼と薔薇の町 スイス・ラッパースヴィル

チューリッヒから湖を南下したところにある美しい小さな町、ラッパースヴィル(Rapperswil)。
この町は、スペイン・サンティアゴ・デ・コンポステーラにつながる聖ヤコブの道の上にあり、透き通った湖を横断する巡礼の木橋と、修道院の美しい薔薇園で有名だ。

町には船で行くこともできるし、電車で行くこともできる。もちろん、巡礼の木橋を対岸のHurdenから渡って行くこともできる。むしろ、スイス最長(841m)を誇るこの木橋をこそお目当てにやってくる人も多い。

上から見ると橋が対岸まで続いているのがよくわかる

今回は、街に電車で入った後に、ラッパースヴィル側から木橋を訪れた。まだ5月末だというのに遮るものの無いひざしは暑く、1km弱歩くのは少し大変だろう。

木橋は、車の通る大きな橋の隣に、こじんまりとあった。橋の入口のまわりには、蘆のような細長い草が水中から生えている。覗いてみると、透き通った水のなか、草の間を縫うようにカモたちがすいすい泳いでいた。

どこまでも続きそうな木橋

少し橋を歩くと、湖はだんだんと深くなり、草も見当たらなくなる。大きな橋や街の喧噪とも距離が離れて、あたりが静かになる。

町のそばと思えない静けさ

湖の上の木橋というのは結構いい。右も左も水の上というのは解放感がとてもある。前を見れば、ずっと向こうまで一本道が伸びていて、遠くにはアルプス。橋の下を覗けば、底まで見える透明な浅瀬に魚たちが泳いでいる。ときたま、頭に白い模様のある黒い鳥が潜って水草を取ってくる。

底まで透き通って魚が見える

町のすぐそこなのに、自然のただなかみたいなここにたたずんでいると、自我が自然に溶けて一体化していく感覚すらしてくる。透き通って淡くて静かなのに、生き物は動き、水面の波打つ音がして、世界が変化そのものであることを鮮やかに感じさせられる。

木橋の途中には小さな家のようなものがある。どうやら教会らしい。この木橋が19世紀から続く巡礼の道であったことが偲ばれるようだ。今ある橋は2001年に改修されたもので、19世紀当時の橋は、支柱に板を乗せただけのものだったらしい。高波などで橋が壊れても、一部の修理だけで済むようにしていたとか。今は穏やかなチューリヒ湖も、治水がされる前は大変だったのだろう。

―――

橋を堪能した後は、もう一つの見どころである修道院(Kapuzinerkloster)の薔薇園に行く。ラッパースヴィルは薔薇の町(Rosenstadt)と呼ばれていて、見ごろの時期には、4つの薔薇園で24000本もの薔薇が見られるそうだ。薔薇の時期は5~10月だが、年によって開花時期は違う。私が行ったのは5月末だったが、その年としては少しだけ早すぎた。

それでもいくつかの薔薇は芽吹きを迎えていて、修道院の茶色い土壁とエメラルドグリーンの湖に、鮮やかな色が良く映えていた。

うまく撮れなくてごめんねの薔薇

修道院隣の高台にあるお城の方へのぼっていく。石畳の道と、お城は、なんだか石の粒が大きくてまろやかで好きだ。装飾があまりなくてこじんまりしているのもいい。

 なんか好きな門

旧市街を見渡す眺めを堪能しながら、お城の横を通って裏手の階段の方へ行くと、素敵なアーチの門をみつけた。門をくぐると鹿たちがのどかに草を食んでいる。その向こうはなだらかに丘下に繋がっているようで、湖が遠くまで見渡せた。

風が心地よくてずっといられる

高台から湖を見ると、下で見た時とはまた違う色をしている。湖沿いにある平屋のようなものは、ホテルか家か。桟橋の上では若者が寝そべって日光浴をしている。高台に吹き抜けていく風は、やわらかくて優しい。遠くに時々ちいさな船が通る。

パラソルを出して寝そべる人たち

湖沿いにまた降りて、面したカフェでシャーベットを買って食べる。隣のグループは、地元の人だろうか。ワインを飲んで談笑している。素敵な昼下がりにこちらも嬉しくなる。

小さな町はそれほど観光客も来ていないようで、心地いい静かさが広がる。心穏やかになって駅への帰り道を歩いていると、学校(Hochschule)が目に入って、こんな素敵なところでの大学生活がうらやましくなってしまった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?